ウェストール『クリスマスの猫』

クリスマスにおこった奇跡のような出来事は猫たちのおかげ。
1934年、イギリス。魚臭い、ちいさな港町。
その古ぼけた牧師館に、「わたし」=11歳の少女はひとりでやってきた。寄宿制の学校が休みの間、「サイモンおじさん」と一緒にすごすために。わたしの両親は外国に行ってしまって、休暇中でも一緒にいられないからだ。
牧師館を事実上仕切っていたのは、ミセス・ブリンドリーだった。これがとんでもなく、おっかない女!かわいそうに、主人であるべきサイモン牧師は、すっかり委縮している。ミセス・ブリンドリ―のせいで、街の人々も寄り付かなくなった。「わたし」は庭の外にさえ出してもらえない。つまんない、冷え切った生活!
そんな時に出会った、一匹の野良猫と、ひとりの少年。わたしは現在の状況を打破すべき進み始める。

ウェストール『クリスマスの猫』
* * * * *
1934年のイギリスは、労働者階級と上流階級にはっきりわかれていました。プロレタリアートとブルジョアジー。昔の日本の、武士階級と農民以上に、分断された社会だったといえます。
「わたし」は幼いながら、いちおうブルジョア階級に属する子供です。5ポンド札(当時の5ポンドは今の日本円で1万8千円くらい)がポケットにあって、自分で使えるくらいの。
友達になったボビーは、典型的な労働者階級の子供。お爺さんは元鉱夫、父親は腕の良い船職人だけど、今は船の組み立て注文もなく、失業手当でくらしています。それでもボビーにいわせれば
「うちは運がいいんだ。こどもはおれ一人だからね。失業手当で食ってるのに、八人も十人もこどもがいる家もあるんだ。そういうとこの子は、はだしで歩き回ってる。冬だってさ。靴がないんだから。(以下略)」
page52「おまえ、このへんのこと、勉強する必要があるな。猫どころか、人間のこどもが飢え死にしている。おれたちは、ただがまんするしかないんだ」
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そんな労働者階級の人々は、なんと戦争を望んでいるというのです。戦争が始まれば仕事にありつけるから。そしてボビーは、口癖のように「革命がおこれば」といいます。革命がおこれば、ブルジョア連中も笑ってなんかいられなくなる、と。
11歳の幼い女の子と、貧しい男の子と、飢えた一匹の野良猫が、どうやって牧師館に奇跡を起こすのでしょうか。
誰もが、最後にはにっこりできる物語です。私としては何より、猫もちゃんと幸せになれたことが嬉しいですね。

ウェストール『クリスマスの猫』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『クリスマスの猫』
- 著:ロバート・ウェストール Robert Westall
- 絵:ジョン・ロレンス John Lawrence
- 訳:坂崎麻子(さかざき あさこ)
- 出版社:株式会社 徳間書店
- 発行:1994年
- NDC:933(英文学)イギリス 児童書
- ISBN:9784198601881
- 128ページ
- モノクロ挿絵
- 原書:”The Christmas Cat” c1991
- 登場ニャン物:
- 登場動物: