グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

 

イングランド島南部、ダートムアの大湿原で生きる猫。

生後12週の幼さで残酷にも捨てられてしまった子猫。最初は「捨てられた」という事実もわからず、かくれんぼか何かの遊びだと思ってはしゃいだ子猫。しかし日が暮れても「おくさん」は戻って来ず、お腹は空き、足は痛くなって、厳しい現実に目覚めた子猫。

ドロドロに汚れた体をひきずって、生きるための必死な戦いが始まる・・・

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

* * * * *

全国学校図書館協議会基本図書
全国学校図書館協議会選定図書
厚生省中央児童福祉審議会推薦図書
第25回青少年読書感想文全国コンクール課題図書
と、ご大層な肩書が並んでいて。よほどの良書なのかと期待したのですが。

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

私の正直な感想を申し上げますと、この本、現在(令和)の子供たちには読んでほしくないなあ!

原書のコピーライトはc1973年となっています。50年前の昔であれば、この本を当時の子供に読ませても全然かまわなかっただろうとは思います。イギリスという肉食文化圏の子供たちであればなおさら。もっと残酷な場もふつうに見られる環境だったでしょうから(たとえば肉屋の店頭にふつうにウサギがそのままの姿でぶら下がっているとか)。

でも、令和の日本の子供たちにはダメだと思います。なぜダメかといいますと、生後12週で捨てられた子猫が、野生動物を狩って生き延びる話だからです。

その週齢の子猫、しかも飼い猫の子が、いきなりハンターとなって自力で生き延びるなんて、実際問題としては不可能なんです。子猫は、母猫に狩りの仕方をみっちり教えられて、やっとハンターとして自立できるのです。12週齢ではようやくハンティングレッスンが始まったかどうかという幼さです。まだ狩りの技術なんて取得してはいません。

この子猫も、最初の頃はかなりの部分を人間に頼って生き延びます。裏口からこっそりミルクをもらったり、馬小屋に入り込んでパンくずと暖を得たり。幼いころは、人間お助けなしでは、とうてい生き延びられる状況ではありませんでした。

でも、猫は、しだいに狩りの技術をあげ、ついには人間のいない湿原で狩猟生活を送るようになるどころか、子育てまでするようになります。

湿原での暮らしは、大雪に埋もれたり、野火に追われたり、洪水に流されたり、試練と苦難に満ちています。何回か出産しますが、無事に大人まで育った子猫はゼロ。老いて体もしんどくなったときに初めて、終の棲家といえる老夫妻の家猫となりますが、その直後にも悲しい運命が待っています。

日本の児童書とちがい、猫のつらさ、苦しさ、恐怖などが、克明に描かれているだけでなく、狩りの様子なども残酷な正確さで描写されていて、まったく遠慮がありません。頭を食いちぎったり、生血をすすったりと、そりゃたしかに狩りとはそういうものなのだけど、でもこんな描写、、令和の小学生にはどぎつすぎるんじゃないかと、とくに都会の子供たちにはあまり見せたくない場面だなと、私なんかはつい思っちゃうんですよね。田舎では、路上に轢死したタヌキ等がよく転がっていて、それにカラスが群れていたりして、まだ「死」を目撃する機会は多いわけですが。

しかし、そういう残酷な場面以上にダメだと思うのが、前述の通り、生後12週齢という幼さで捨てられても「猫は立派に生き延びられる」という誤解を与えかねない話になってしまっているからです。

この猫は例外中の例外です。こんなにたくましく、しかも幸運に恵まれた捨て猫なんて、ほとんどいません。山に捨てられたら、子猫はもちろんのこと、大人猫でも、ふつうはすぐに死んでしまいます。私自身、今は「限界集落」なんていわれる里山に住んでいて、捨て猫にもよく遭遇します。見つけたら即座に保護しない限り、捨て猫は必ず死んでしまいます。痩せ細ってボロボロになった死体を発見することになります。これはもう100%と言ってよい確率です。猫だって、捨てられた場所がもし下町の、人も飲食店も多くゴミ箱も多い裏通りなら、あるいは生き伸びられる確率が少し高まるかもしれません。でも荒野はダメです。猫は荒野では生きられません。

子供時代に、荒野でたくましく生き延びる話を興味深く読んでしまったら、それが潜在意識となって、大人になってからも安易に「山に捨てちゃえ」と考える人になってしまうかもしれません。子供時代に覚えた事って、ほぼ永久に忘れませんからね。だから私は恐れます。こういう話を幼い頭に読んでほしくないと思ってしまうのです。

でも猫という動物をよく理解している大人、外猫の惨状を熟知した人が読むのであれば、問題はないでしょう。すごい子だなあ、自分も見習わなくちゃと励まされるでしょうし、最後は「だからやはり猫は捨てちゃいけない、完全室内飼いで大事にしなきゃ」とあらためておもうことでしょう。

ということで、出版社はこの本の読者層を「小学中級以上」に設定していますけれど、私なら「人生中年以上」としたいです。

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『荒野にネコは生きぬいて』

  • 著:G.D.グリフィス G.D.Griffiths
  • 訳:前田三恵子
  • 絵:福永紀子
  • 出版社:文研出版 文研ジュニベール
  • 発行:2005年
  • NDC:933(英文学)イギリス 児童書 小学中級以上
  • ISBN:9784580814813
  • 160ページ
  • モノクロ
  • 原書:”Abandoned” c1973
  • 登場ニャン物:無名
  • 登場動物:-

 

 

グリフィス『荒野にネコは生きぬいて』

8.8

猫度

9.9/10

面白さ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

7.5/10

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA