三島由紀夫『午後の曳航』

三島由紀夫『午後の曳航』

三島文学の中でも特異な作品。

世界各国で翻訳され、映画やオペラにもなった中編小説。文壇では高い評価を得ています。

しかし、猫好きさんにはお勧めできない内容です。猫の虐殺シーンが出てきます。

ストーリー

登は13歳の少年。8歳の時、父は死んだ。母は舶来品専門のブティックを経営している。

登には秘密があった。登の部屋の大抽斗を引き出すと、奥に小さな穴が開いているのだ。そこから隣の母の部屋をのぞき見できるのだ。まだ33歳の母の躰は、均整がとれて美しかった。

登には仲間がいた。首領を筆頭に、全部で6人。どの子も、身体的には13歳の平均以下だったが、頭脳的には平均以上だった。どの子も自分たちを天才だとおもい、世間を冷笑していた。

少年達は、ある日、残酷な遊びに興じる。捕まえてきた子猫を惨殺したあげく解体したのだ。首領は、登の肩にさわって言った。

「よくやった。君はこれでどうやら、いっぱしの、まともな人間になれたんだよ(以下略)」
(page 68)

登の母に恋人ができた。登の目に、彼は最初、英雄的な船乗りに見えた。が、ふたりが婚約したとき、英雄の没落がはじまった。平凡な男に、それも「父親」というもっとも劣悪な種族に、なりさがろうとしていた。

これは、登にも、その仲間たちにも、ぜったいに許せないことだった。少年達は恐ろしい計画をねりはじめる。

 

三島由紀夫『午後の曳航』

 

 

感想

「声の弱々しい小さな捨猫」が残酷に撲殺され聞き刻まれていく様子が、冷徹に描かれています。13歳の少年達の、あまりに幼稚な理屈と万能感。そして、さらに恐ろしい犯罪を企む・・・背筋がゾワゾワしてくるような不気味な小説です。

巻末の「解説」で、田中美代子氏はこう書いています。

読者は、仲間を集めて高遠な哲学を披瀝する十三歳の少年など現実に存在しないことを知っている。
(page 200)

しかし、実在しました。1997年の「神戸連続児童殺傷事件」です。犯人の少年が残した名前から「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)事件」とも呼ばれる、あれです。

あれは本当に恐ろしい事件でした。日本全体を2回も震撼させました。1回目はもちろん、事件当時。わずか14歳の少年が、小学生5人を襲撃し、2人が死亡、2人が重軽傷を負ったというだけでも恐怖ですが、犠牲者の少年の首を切り落として自分が通う中学校の門前にさらし、その口中に警察への挑戦状を残した、という点であまりに奇異でした。それがわずか14歳の少年の犯罪とわかったときは、残虐とか無慈悲なんて言葉をも通り越し、ただもう言葉が出なかった、どう表現してよいかわからなかった、そんな感じでした。

そして2回目は、震撼というより、あきれ果てたというべきでしょう。神戸家庭裁判所が、2011年に、神戸連続児童殺傷事件のすべての記録を廃棄していたことが、2022年の報道機関の取材により発覚したことです。なんともお粗末な資料管理でした。

この犯人、酒鬼薔薇聖斗は、それまでに猫を殺して首を切り落としていたことも報道されました。それも1頭や2頭ではなかったらしい。

この事件のおかげで、猫や小動物の虐殺犯が、後日、しばしば殺人に発展することが、世間にも広く知られるようになりました。動物虐待が、動物愛護の方面からだけでなく、人間社会全般の安全のためにも、監視・取締の対象となるべき行為であると認識されたのです。

小説のレビューに話をもどします。少年期独特の心理を、実に鋭く遠慮無く穿っている点において、さすが三島由紀夫と思います。これほど容赦ない描写は誰でもできるものではない。一般的な「無垢で純粋な中学生」のイメージとはかけ離れています。かけ離れすぎているから、「解説」にかかれたように、ただのメルヘン、作り話と読む人も多かったのでしょう。でもメルヘンではなかった。実在するんです、こういう子供。SNSがここまで発展した今、こういう子はもっと増えているのではないでしょうか。

昭和38年(1963年)に書き下ろされたこの作品は、現代を先取りしていたともいえそうです。

三島由紀夫『午後の曳航』

  

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著者について

三島由紀夫(みしま ゆきお)

1925-1970。東京生まれ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947()昭和22年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆活動に入る。49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確率。主な著書に、54年『潮騒』(新潮社文学賞)、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド公爵夫人』(芸術祭賞)、等。70年11月25日、『豊穣の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。、ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『午後の曳航』

  • 著:三島由紀夫(みしま ゆきお)
  • 出版社:株式会社新潮社 新潮文庫
  • 発行:1968年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784101050157
  • 202ページ
  • 初出:昭和38年(1963)
  • 登場ニャン物:無名(雉子虎の子猫)
  • 登場動物:-
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