石田祥『猫を処方いたします。3』

薬ではなく、本物の猫を処方するふしぎなクリニック。
「中京こころのびょういん」は、今日も、様々な悩みをかかえる患者達に、本物の猫を処方しています。
ストーリー
楓子は、重要な社内プレゼンを数日後に控えている。社長もくるのだ。念密に資料を作って、何回に練習したが、緊張は増すばかり。そんな楓子に友達がすすめたのが「中京こころのびょういん」。迷いながらようやくたどり着いた病院で処方されたは凶暴な猫?
かたや。家に帰りたくない会社員。自宅には妻と7ヶ月の赤ちゃんが待っている。赤ん坊の世話がこんなに大変とは知らなかった。妻も、夫の自分も、気が休まる時がない。追い詰められて、飲んだくれて、偶然はいりこんだメンタルクリニックで、行われた治療は「猫を習う」。え、猫を「習う」って、どういうこと?
感想
第1巻ではもっぱら「猫と暮らす」治療法。第2巻で「猫をあてる」という治療法が登場しましたが、今回はまた新しい治療法が出てきます。「猫を習う」です。どんな治療か、どんな効果があるかは、どうぞご自分でお読みください。
今回も、飛び入りの新患と、ニケ先生のいう「予約の」患者が出てきます。予約の患者が登場するたびに、ニケ先生と千歳看護師の過去が少し明るみに出ます。なぜこのふたりが、なぜこの場所で、こんな不思議なびょういんをやっているのか。なぜこのびょういんは、治療(猫)を必要とする人にしか見つけられないのか。この場所で過去に起こった出来事とは。
それにしても、今回も見事です。猫が家にいれば人が癒やされるのはいうまでもありませんが、猫とかかわるだけでも、あるいは猫っぽくなるだけで、人は変わることができるのです。猫のように感じ、猫のように世の中を眺めれば、くだらない悩みであったことに気づけます。猫のように振る舞い、猫のように自分に正直になれば、別の光が見えてきて、また前進することが可能になります。
ニケ先生の軽さがよいです。人間の悩みを軽く吹き飛ばしてくれます。千歳看護師の冷たさが良いです。人間の悩みを軽く突き飛ばしてくれます。
けれども。
このふたりの背後に隠された、このふたりが味わってきた苦しみも、シリーズを読むごとにわかってきます。しかもその苦しみは、このふたりだけのものじゃありません。世界の多数の猫たちに課せられた苦しみ、悲しみ、悲鳴。それがあまりに巨大で強大だから、ニケ先生はあんなに軽そうに笑ってすごすしかないのです。そこまで考えて読んでほしいと私は願います。
やさしさにあふれた作品。こころが疲れているあなたに、ぜひ、おすすめのシリーズ。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

目次(抜粋)
- 第一話
- 第二話
- 第三話
- 第四話
著者について
石田祥(いしだ しょう)
2014年、第9回日本ラブストーリー大賞へ応募した『トマトの先生』が大賞を受賞しデビュー。他の著書に「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』『火星より。応答せよ、妹』がある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『猫を処方いたします。3』
- 著:石田祥(いしだ しょう)
- 出版社:株式会社PHP研究所 PHP文芸文庫
- 発行:2025年
- NDC:小説 914.6 小説
- ISBN:9784569904139
- 294ページ
- 初出:書き下ろし
- 登場ニャン物:ベーナ、ミミ太、タンジェリン、コクベエ、ムギ、チョコ、シマン、ミーコ、シロ
- 登場動物:
