石田祥『猫を処方いたします。4』

薬のかわりに、本物の猫を処方するびょういん。
中京こころのびょういんは、どこにも宣伝は出していないし、検索しても何故か出てこない、不思議なびょういん。人づてに「良いメンタルクリニックがある」と聞いた患者だけが、ウロウロ探し回ったあげく、やっと見つけることができます。
びょういんにいるのは、ニケ先生と千歳看護師。ニケ先生はまだ若くやたら軽い感じで、この人がメンタルクリニックの名医かと誰もがとまどってしまうほど。千歳看護師は、キツイ美人で品があって、でもそのツンと取り澄ました中にふと優しさを感じることがあります。
ストーリー
今回登場するのは、スマホ依存症の小学生の男の子。容姿コンプレックスの女子大生。亡くした猫をいつまでも忘れられない夫婦。致命的な心の傷をかかえつつ果敢に立ち上がろうとする姉妹。
どの患者にも、ニケ先生は軽ーい感じで
「猫を処方しますね。ほな、千歳さん、猫持ってきて」
千歳看護師は、ツーンと冷ややかな表情のまま、猫がはいったキャリーケースを運んでくる。
それが多少の荒療治だとしても、誰にでも、必ず効く猫がいる。
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感想
ますます好調なシリーズ。内容もますます良くなってきた感じがします。猫が自然と人を治していきます。
治す、といっても、今回も猫は何もしません。ただ家にいるだけ。それだけで、周囲の人間が突然気づいたり、別の視点が現れたり、ふと我に返ったりして、自発的に、勝手に治っていくのです。猫、最強!これほど短期間にこれほど効果ある「薬」なんて他にあるでしょうか?肉体的な薬なら、あるいはあるかもしれませんが、猫が治療するのは精神の方です。抗うつ剤にせよ何ににせよ、これほど精神に有効な化学的な薬なんて、この世にまだ存在していないでしょう。
そうです、ほんとうに、猫は何もしません。それどころか、時には患者から逃げ、時には引っ掻き、猫砂をまき散らし、もっとも居心地の良い場所で熟睡して人間の邪魔をします。その一方で、あまりに愛らしい仕草、愛らしいおめめ、愛らしい後ろ頭で人間を魅了します。多くの猫小説のように、猫が中心となって何かする、というわけでもありません。主人公はあくまで人間たちで、猫はそのすぐ横にちょこんといるだけです。
いるだけなのに。何なの、この存在感?
このシリーズを読めば、猫と暮らしたいと思っている人はますます「ぜったいに猫と暮らしたい!」と熱望するようになるでしょう。すでに猫と暮らしている人であれば、自分の幸せをほのぼのとかみしめつつ「そうなのよ、そうなのよ」と頷いて、膝の猫をなでるか、膝にいなければ立ち上がってわざわざ探してまでなでたくなるでしょう。
ニケ先生の体調が気になりますが・・・
私の代のお勧めシリーズです。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

目次(抜粋)
- 第一話
- 第二話
- 第三話
- 第四話
著者について
石田祥(いしだ しょう)
2014年、第9回日本ラブストーリー大賞へ応募した『トマトの先生』が大賞を受賞しデビュー。他の著書に「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』『火星より。応答せよ、妹』『にゃんずトラベラー』がある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『猫を処方いたします。4』
- 著:石田祥(いしだ しょう)
- 出版社:株式会社PHP研究所 PHP文芸文庫
- 発行:2025年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784569904733
- 301ページ
- 初出:(書き下ろし)
- 登場ニャン物:あんず、ナゴム、チャト、ニニイ、シロ、タビー
- 登場動物:-
