西村京太郎『内房総線の猫たち』
副題:異説里見八犬伝
曲亭馬琴の超大作『南総里見八犬伝』は、名字に「犬」がつく八剣士(犬士)が大活躍する物語。しかし、里見家に本当にいた家臣たちにについていた字は「犬」ではなく・・・!?
あらすじ
猫田京介(狂介)は孤児だった。18歳で養護施設を卒業した後も、まともな職につかず、飲み歩いては暴れて、警察の厄介になることもしばしば。その男、小笠原に出会ったのも浅草警察署の留置場内だった。小笠原はなぜか猫田に興味を持ったようで、一枚の名刺を渡してきた。その名刺の裏には「人生を楽しみたければ、電話したまえ」と書いてあった。
留置所を出たあと、金も行き場所もなかった猫田は、軽い気持ちで電話してみた。
猫田は千葉に連れていかれ、思いがけない話をきかされた。
「里見家には、戦いの名人が何人もいたらしい。だから、曲亭馬琴は、そのことを踏まえた上で、『南総里見八犬伝』という長編小説を書いたんだ。しかし、私が調べたところによると、里見家にいたという剣士は犬ではなくて、本当は猫の字がついていたということが分かったんだ。その中には、君と同じ猫田という侍もいた」
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猫田はその侍の末裔だというのだ。しかも、同じような末裔が総勢八人、目的をもって集まっているという。その目的とは次の3つ。行方不明になっている里見の姫君の子孫をさがしだすこと、汚名をきせられた「鉄道第二連隊」(第二次大戦時代、猫たちの先輩達が所属していた)の真実を明らかにして名誉を回復させること、そして、里見家復興を実現させること。
しかし、それには莫大な資金が必要となる。そのためには、十万両とも三十万両ともいわれている「里見家の埋蔵金」を見つけるほか手はない。
さっそく、埋蔵金捜しが始まった。しかし、さっそく妨害者も登場。しかもその敵は人数も資金も猫田たちより多い。
猫田たちは埋蔵金を見つけられるのか?そして、小説の意外過ぎる結末とは?
感想
作者は西村京太郎だし、裏表紙には「そして最後に十津川警部は・・・・」なんて書いてあるので、てっきり推理小説かと思ったのですが、違いました。いえ、広義ではこれも一種のミステリー小説といえるのかもしれませんが、いわゆる「事件がおこって、探偵か刑事が出てきて、云々」の小説ではありません。かといって歴史小説でもありません。まあ、気楽な娯楽小説?
作品中、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』が随所で言及されますが、原作の内容を知っている必要もないでしょう。「昔、里見という殿様が現在の千葉県にいて、犬の名がつく八人の犬士が大活躍した話」とだけわかっていれば問題ありません。
また、生きた猫の登場もほんのわずか。蒸気機関車に住んでいるという黒猫と、八人のリーダー小田島が飼っている八匹の猫たちがチラリと出てくるだけです。
しかし、主人公の名は猫田だし、仲間も「猫たち」と表現されていたりと、「猫」の字だらけな作品となっています。
私の個人的感想を正直に述べれば、ストーリーには矛盾や中途半端な点が多く、結末にはかなり拍子抜けしましたが・・・
もし本当に、江戸時代の里見家に、猫の字のつく家臣たちがそろっていたなら面白かったのにと夢見ることはできました。その猫侍たちの名は:猫田作左衛門景平、猫谷源蔵重盛、猫山新八武之、猫川久太夫貞行、猫毛久太朗摘正、猫足源八郎康行、猫倉三平亘行。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
西村京太郎(にしむら きょうたろう)
1966年、『天使の傷痕』で江戸川乱歩章を受賞。81年には『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞に輝く。鉄道推理に新境地を開き、おラベルミステリー流星の先駆者となった。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『内房総線の猫たち』
異説里見八犬伝
- 著:西村京太郎(にしむら きょうたろう)
- 出版社:株式会社講談社 KODANSHA NOVELS
- 発行:2015年
- 初出:「小説現代」2015年3~9月号
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784062990561
- 163ページ
- 登場ニャン物:8~9匹
- 登場動物:-