千田佳代『猫ヲ祭ル』

千田佳代『猫ヲ祭ル』

「猫ヲ祭ル」は梅尭臣の漢詩から。

この漢詩、私も知っています。どんな詩かはこちらのページに書きましたので、興味のある方はご覧ください。

https://nekohon.jp/neko-wp/bunken-baigyoushin/

ストーリー

独り身の女性。杉並区には五五年住んでいた。

かくて、私は気づけば定年まぢかの老嬢であり、家無し、子なし、マンションを買える金などのない文学(俳諧)の浮かれ者であった。
(page 14)

しかも、傷害をかかえていた。子供の頃、アメリカ軍の弾にやられたのである。足を引きずりながら、そこはかとない寂しさを感じている中、ぬくもりが現れた。

その猫は気まぐれにやってきては、ときに泊まっていく。小さな生きものの、彼女を信じて委ねきった姿に、自称老嬢は慰められる。

しかしその猫との縁は短かった。もっと太く強い猫縁は、その約10年後にやってきた。

感想

最初の猫とは、ごくあっさりした関係でした。野良猫なのか、どこかの飼い猫なのかもわからない猫。昔の、まだ猫の放し飼いがふつうだったころは、よくそういう猫がいたものです。

つぎの猫も、最初は一時預かりのつもりでした。ところがどんどんその猫にはまっていきます。猫中心の生活になっていきます。夫もいない、子もいない、友達も多くはない。脚に障害あり。しかも70代と高齢。俳諧の住民ということは、感受性も人並み以上なのでしょう。最初のころの彼女はかなり寂しそうです。自分が独りであることを強く意識しています。

でも、年齢とともに、寂しさはかえって薄れていくようです。体はますます不自由になり、70を過ぎて介護認定もされますが、毎日は穏やかです。猫のちょっとした動きに驚かされたり、小さな発見があったり。猫と寄り添うように生きながら、彼女はしばしば昔のことを思い出します。けがをした時のこと。防空壕へ逃げられない患者たちはベッドに守ってもらうしかなく、しかし防空壕とて粗末な穴にすぎないし、つぎに爆弾が落ちたらお終いだなと覚悟していた日々。若い介護士とのなにげない会話。猫の話。句会のこと。すでに旅立ってしまった人たちへの語りかけ。

老嬢の日々が丁寧につづられています。大事件はおこりません。2回引っ越しますが、おおきなトラブルとかもありません。やさしく緩やかに時が流れていくだけです。静かな老後、静かな生活。その合間を猫が軽やかに駆け抜けていきます。

しっとりとした良い作品でした。若い人よりは、人生の折り返し地点を過ぎた年齢の方におすすめの一冊となります。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 介護認定(二〇〇五年)
  • 西荻窪(一九五八年~二〇〇四年)
  • 座間市相武台(二〇〇四年~二〇〇八年)

著者について

千田佳代(せんだ かよ)

文芸同人誌「公園」「朝」などに作品を発表。俳誌「杉」同人。小説は『姥ヶ辻』に二作収録。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫ヲ祭ル』

  • 著:千田佳代(せんだ かよ)
  • 出版社:株式会社 作品社
  • 発行:2009年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784861822698
  • 202ページ
  • 登場ニャン物:ブス、キティ―、アトム、ナイル、トラ、ほか
  • 登場動物:-
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