梶井基次郎『愛撫』

梶井基次郎『檸檬』

 

「檸檬」収録の短編。

わずか数ページの短編。

梶井基次郎といえば、まず思い浮かべるのが「檸檬(れもん)」。ごく短い作品で、内容はといえば何のこともない、ひとりの男が本屋の店頭に檸檬を置いたというだけのことで、いわばどうしようもない小さな悪戯を過敏な神経で書いているに過ぎず、そんな話がなんであんな可憐で繊細でドキドキするような傑作になってしまうのか、もう魔法としか言いようがない。

この「愛撫」も、内容だけで言えばそれはもうとんでなく残酷なことを書いているのだが、これも魔法がかかっていて、読後感は、とがって透き通った氷のかけらみたいな、あくまで冷たく堅く凍り付いていながら妙にキラキラとした、不思議で独特な印象が残る。

この梶井基次郎という男、こんな残酷なことを書いているけどどうせ檸檬ひとつであんなに興奮してしまうような男さ、どこまでも空想の産物だという安心感はある。だからいわば子供の空想を聞くように平気で読める。

しかしその安心感の後ろに基次郎のいかつい顔がちらついて、かすかな不安感もあおられる。基次郎の顔って、あの繊細で過敏な「檸檬」の作者とはとても思えないようなゴツイ顔なのだ(ごめんなさい!!)。

猫よりまず純文学、という方ならお勧めします。

文学より猫という方にはお勧めできないかも。

(2006.2.1)

梶井基次郎『檸檬』

梶井基次郎『檸檬』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『愛撫』
「檸檬(れもん)」収録

  • 著:梶井基次郎(かじい もとじろう)
  • 出版社:集英社 秀英文庫
  • 発行:1991年
  • NDC:913.6(日本文学)短篇小説集
  • ISBN:4087520137 9784087520132
  • 247ページ
  • 登場ニャン物:ミュル
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

  • 檸檬
  • 城のある町にて
  • ある心の風景
  • Kの昇天
  • 冬の日
  • 蒼穹
  • 筧の話
  • 器楽的幻覚
  • 冬の蠅
  • 桜の樹の下には
  • 愛撫
  • 闇の絵巻
  • 交尾
  • 語注—小田切進
  • 解説―感覚の力、精神のドラマ—鈴木貞美
  • 鑑賞―青年から壮年への断層—呉智英
  • 年譜—鈴木貞美

 

著者について

梶井基次郎(かじい もとじろう)

1901-1932年。大阪生まれ。東京帝国大学英文科在学中の大正14年、同人誌「青空」に『檸檬』発表。結核に苦しみ、昭和7年、31歳で夭折。生前はほとんど無名であったが、その緊張感の高い文体と詩情は死語高い評価を受け、現在に至る。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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