吉行淳之介編『ネコ・ロマンチスム』
猫だらけの短編集。
『愛撫』梶井基次郎
『恋人同士』倉橋由美子
登場ニャン物=ミカ、ヤンニ
倉橋由美子といえば、カフカ、カミュ、サルトル、安部公房を連想する。シュール・リアリズムは一時期、一世を風靡した感があったが、最近はどうなんだろう?私は好きなのだが。
登場人物は、例によってKとL。それから、ミカとヤンニという2匹のネコ。3角関係ならぬ4角関係がおりなす怪しい雰囲気。濃厚な関係。「愛する」と「あいする」を厳密に使い分けながら、独特な空気をただよわせている。
『海のスフィンクス』金井恵美子
登場ニャン物=イヌ、スフィンクス
ローティーンの少年の、淡い初恋物語。磯の香りと、不思議な猫と。
この短編でちょっと驚いたのが、以下の下り。
古風な両親が、有難いことに、ぼくが夏休み前に十二歳になったので、もう一人旅をしてもいい年ごろだと考えた(中略)そんなわけで、その年ぼくは浮き浮きした気分で生まれて初めて一人で長い旅をして、島にやってきました。
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わずか十二歳で、島への長い一人旅を許す”古風な”両親!今の時代、そんな両親、いるだろうか?下手すれば二十二歳だって「許しません!」と目じりを吊り上げる過保護親があふれているというのに。
そして、この少年は
長い旅の間、ぼくは両親が飛行機事故で死んでしまうという妄想にとりつかれ、そのことばかりを考えつづけていたのですが、その妄想は完備にぼくを酔わせ、目を閉じると、黒い煙と炎を吐きながら青い空の高みから落下する飛行機の銀色の機体と、無残な両親の死体が浮かんでくるのでした。
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この親子関係。なんともあっさりしていないか?1971年の作品だそうだ。
平成の今、世の中には「8050問題」はじめベッタリ共依存親子が多すぎて、げんなりしてしまう。少し前の世の中は、こんなあっさりした親子関係がもっと普通に存在していたのだろうか?(ひきこもってしまう子供にはそれなりの身体的・精神的理由がある場合がほとんどで責められないということはわかっているけれど。)
『ネコ』星新一
登場ニャン物=無名
なんとも星新一氏らしい、小気味よいSF。あまりに短いのであらすじも何も書けませんが、内容は爽快です。猫ちゃん、ありがとう!
『猫の事務所』宮沢賢治
『猫貸し屋』別役実
登場ニャン物=複数
「猫かしましょーう、おとなしい猫・・・・・・。猫かしましょーう、おとなしい猫・・・・・・。」
お爺さんはそう呼びながら、猫達がいっぱいはいったドンゴロス(麻)の袋をかついで、町を歩く。一人暮らしの寂しいお年寄りなどが客だ。しかし、最近は猫を借りてくれる人がめっきり減ってしまった・・・
『猫の首』小松左京
『お富の貞操』芥川龍之介
『ドリス』谷崎潤一郎
登場ニャン物=ドリス
谷崎潤一郎が魅了されて止まない女と猫とについての、広告をずらりとならべた小説?小説というほどのストーリーはないのだが。随筆としたほうが正しい?短編です。
潤一郎ファンの私には、なにが潤一郎の興味を引くか、という観点から、まあ興味を持って読めたが、ファンでない人には、ただの広告文の羅列に近く、あまり面白くないかも。しかし、広告文というのは時代をもっとも強く感じさせる物ではあるし、猫飼育の時代変化を読みとることも出来るかも。
『猫』吉田知子
登場ニャン物=コマ
ホラー小説。かつては広い屋敷と田んぼを持っていたお婆さんが、すっかり無一文に落ちぶれて、今は生活保護の身。彼女の貧しい生活に色を添えるのは・・・?
『猫町』萩原朔太郎
『猫踏んじゃった』吉行淳之介
非常に気持ちの悪い描写があります。猫が好きな方にはお勧めできません。
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作家たちの短い紹介。
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『ネコ・ロマンチスム』
- 編:吉行淳之介
- 出版社:(株)青銅社
- 発行:1983年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:-
- 206ページ
- 登場ニャン物:上記
- 登場動物:-