ジャック・ロンドン『荒野の呼び声』
別訳『野生の呼び声』とも。動物文学界の名作。1903年発表。
ストーリー
バックはアメリカの南部で生まれ育った犬だった。父犬はセントバーナード、母犬はスコットランド産のシェパード。140ポンド(63.5kg)の堂々たる体躯に、豊かな被毛。広大な屋敷で、王者のような生活を送っていたが。
北国で金鉱が発見されて、バックの生活が一変した。盗まれて、犬ぞり用に売り飛ばされてしまったのだ。
北国での生活は、南部とは何もかもが違っていた。人間は棒と鞭で犬たちを従える。犬同士も激しく争う。雪を踏み分け、重いソリを一日中引く。あまりに過酷な日々。
南国育ちの犬たちは耐えられずにすぐに死んでしまった。だがバックは生き残った。のみならず、犬たちのボスとしてのし上がっていく。バックは、その性格も、筋肉も、のちには生活まで、野生だった先祖に戻っていったのだ・・・。
感想
2024年7月、北海道厚岸群にて、ソリ犬たちの虐待飼育が発覚しました。橇犬たちはオフシーズンには散歩も無く繋がれっ放し、水と餌は良くて3日に1回、悪ければ4日も5日も水・餌無しで放っておかれ、弱った犬から次々と脱水や餓えで死んでいたそうです。
この悲惨なニュースで、ジャック・ロンドンの『荒野の呼び声』を思い出しました。橇犬の話です。橇犬としての過酷な労働、犬同士の闘争。雪煙に行く手を阻まれ、足元の氷が割れる。巻末の解説によれば、「発表と同時に爆発的人気を呼び」「以来、アメリカ文学の古典のひとつとみなされると同時に、一般読者の変わらぬ支持をあつめ」「現在にいたるまで約九十か国語に翻訳された」(page167)。何回か映画にもなっていますし、まさに名作中の名作ですね。
バックと、北海道のソリ犬たちとの違いは、バックの飼い主たちは犬たちと一緒に、まさに自分自身も常に命の危険にさらされながら、犬たちにソリを引かせたということでしょう。それに対し、北海道のソリ犬たちのオーナー会社は、犬で金儲けすることだけを考え、自分達は飽食して呑気に暮らしながら、犬だけに苦労を強いたどころか、虐待までしたのです。本当に許せない事件です。
話を作品に戻しまして。
子供のころから何回も読んで、内容も知り尽くしているのに、思い出すとまた読たくなります(笑)。そして読んでは、「やっぱり面白い!」。
バックの賢さには、何回も惚れ直してしまいます。バックは経験したことは確実に覚えるばかりか、他者を観察することでもどんどん学習していきます。そして日増しにたくましさを増し、ずるがしこいほど巧妙に立ち回れるようになっていきます。
バックを取り巻く人間たちは様々です。一見粗野だが公平な男たち。だらしのない人間。誠実な人間。1903年の作品らしく、ゴールドラッシュのアメリカの世相を克明に写していて、なんて厳しく冒険に満ちた世界だったんだろうと驚いてしまいます。こんな時代に生まれなくてよかったと思うと同時に、素直に憧れも感じてしまいます。
最後の場面は、命の儚さと逞しさ両方。悲しくもあり、嬉しくもあり。私はどうしても人より動物を味方してしまいますから、この結末は私にとってはどちらかといえば嬉しいものでした。動物文学は最後に動物が悲しいことになるものが多いですから、死なないだけでもホッとするのです。
と、こんなことを書いたらネタバレになっちゃうでしょうか?動物好きの皆様なら、あまりに有名な話だもん、最後は知ってるよ、って方も多いだろうと思いますけれど。
バックはセントバーナードとシェパードの両親から、セントバーナードの大きさと被毛、シェパードの賢さと機敏さを受け継ぎ、野生オオカミがたむろす雪原でも生きていけるだけの才覚を発揮できました。甘やかされた南部の犬が雪山の王にまっすぐ突き進んでいく様子、その物語は、何度読んでも飽きることがありません。子供のころに読まれた方も、ぜひもう一度、読み直してくださいね!
英語版では『荒野の呼び声』と『白い牙』が一冊になっています。私が読んだのはずいぶん昔で、どのくらい昔かというと↓
すっかり黄ばんでいますね。ニャハ。
『白い牙』も傑作です。ぜひ併せてお読みください。
また『The Call of The Wild』は何回か映画にもなっています。一番最近のハリソン・フォード主演のレビューはこちら。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
ジャック・ロンドン Jack London
アメリカの小説家。1876-1916年。『海のオオカミ』、『スナーク号巡航記』、『南海物語』、『エルシノア号の反乱』、『どん底の人びと』、『オオカミの息子』、『白い牙』他多数。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『荒野の呼び声』
- 著:ジャック・ロンドン Jack London
- 訳:海保眞夫(かいほ まさお)
- 出版社:株式会社岩波書店 岩波文庫
- 発行:1997年
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:9784003231517
- 174ページ
- 原書:”The call of the wild” 1903年
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:バック(セントバーナードとスコットランド産シェパードのハーフ犬)、その他多数の犬たち