クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』
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あらすじ
主人公は3人の子供たち。エープリルは12歳、小柄で頭が切れ、髪の色はblonde(金髪)ではなくtawny(金髪に少し茶色がかかった柔らかい色)。姉のダイナは健全な14歳。弟のアーチーは10歳のいたずら盛り。
3人の母親はかつては敏腕な取材記者、今は推理小説作家です。女手一つで3人の子供たちを育てています。少々仕事熱心すぎるのが玉に瑕、創作に乗ると他の事は何一つ目に入らなくなります。
子ども達は、ある日、銃声を聞きました。2発。とても近くです。それから車が2台、続けて走り去る音。驚いて隣に駆け付けると、もう一台の車がやってきました。そして女性が降りてきて、そして、死体を発見しました。殺人事件です。
3人の子供たちは、身近な事件に驚きつつも、とっさにこう思ったのでした。もしこの殺人事件を母さんが解決したら、母さんのご本ももっと売れるのではないかしら!なんたって母さんは推理小説作家なのですから。
でもその肝心な母さんが、お仕事で忙しすぎて、事件解決に取り組むどころではありません。でも子供たちは諦めきれません。もっとご本が売れるようになれば、母さんもあんなに必死にお仕事をしないで済むようになるかもしれないのに。
となれば、もう、自分達でやるしか仕方ないじゃありませんか。こうして3人のチビッ子探偵たちは、犯人捜しに東奔西走しはじめました。
感想
軽快な、読んで楽しいミステリーです。主人公は子供たちですが、児童書ではなく、本格的な推理小説になっています。それでいて明るく、ユーモアがあり、おどろおどろしい場面とかは皆無。1944年の作品ですけれど、古さは感じません。
そう、ストーリーに古さは。ただ少々残念なことに、翻訳も古いのです。大人達の言葉遣いはふつうに現代でも通用しそうですが、子供たちの言葉が・・・わずか12歳や14歳の少女たちが「あたくし、・・・でございますわ」「そうなさいませ」みたいなしゃべり方をするので、最初はちょっと戸惑ってしまいます。でもその辺は”古い翻訳”と割り切って、ときには頭の中で現代子供語に同時通訳しつつ、読み飛ばしてくださいましな。その程度の違和感なんてすぐに吹っ飛ぶくらいに面白い作品なのですから。
登場人物はけっこう多め、事件も色々と絡み合って、謎が謎を呼びよせます。しかも子ども達は、犯人捜しだけでなく、母さんの恋人候補も探すのですから、忙しいったらありゃしません。あっちに飛び、こちらに隠れ、計略を張り巡らし、しばしば大人をも手玉に取って翻弄。度胸も頭脳もある子供たちです。
推理小説ですから、ネタバレは書きません。どうぞご自分で読んで楽しんでくださいね。
なお、出てく猫は3頭。ときどきチラっとページを横切るだけで、何もしません。ジェンキンズはふつうの名前ですが、あとの2ニャンは、黒い子猫がインキー、これは”Inky(真っ黒の意)”で良いとして、真っ白な子猫の方はスティンキー”Stinky(臭いの意)”。あらま、どういうこと?インキースティンキーと韻を踏みたかっただけ?おそらく命名したのは、やんちゃ坊主のアーチーで、彼ならやりそうなことです。でもせめてピンキー”Pinky/Pinkie(小指の意)”とかにしてあげればよかったのに、と思わずにはいられない私なのでした。
と、このスティンキーという名前がちょっとインパクトがあったので、「猫が登場する」とも言えない程度の登場ではありますが、猫本リストに加えさせていただきます。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『スイート・ホーム殺人事件』
- 著:クレイグ・ライス Craig Rice
- 訳:長谷川修二(はせがわ しゅうじ)
- 出版社:株式会社早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:1976年
- NDC:933(英文学)長編推理小説
- ISBN:9784150715519
- 396ページ
- 原書:”Home Seet Homicide” c1944
- 登場ニャン物:ジェンキンズ、インキー、スティンキー
- 登場動物:犬