中川智保子『猫おばさんのねがい』

負けられない、やめられない。
10年間、野良猫に餌を運び続けた猫おばさんの切ない気持ちが本になりました。
本は、野良猫・三吉(さんちゃん)の目線から書かれています。
三吉はまだ若い頃、交通事故に遭って後ろ足を1本失ってしまいました。
しかも三吉を飼ってくれていた大学生は、そんな三吉を置き去りにして卒業と同時に引っ越していってしまいました。
どん底に落ちた三吉を救ってくれたのが、髪を金色に染めた女の子たち、それから、「おばさん」でした。
おばさんは毎日三吉にご飯を運んでくれました。
雨の日も、風の日も、台風の日も、怪我でろくに歩けない日も。
三吉は野良猫の悲しく厳しい生活を毎日見ています。
そして寝れば、繰り返し、あの足を失った恐ろしい事故の夢や、ほかのつらい夢を見ます。
楽しい夢は滅多に見ません。
おそらく野良猫のみる夢は、みんなそうなのかも知れない。追いかけられた夢、石を投げつけられ傷つけられた夢、幾日も何も食べられず飢え死にしかかった夢、暖かいねぐらもなく寒さに震えていた夢、みんなそんな夢に苦しめられているのかもしれない。それが、野良猫の宿命なのだろうか。
page 67
それでも三吉は、野良猫としては恵まれたニャン生だったというのです。
おばさんが気にかけてくれたから。毎日ごはんを運んでくれたから。
そのおばさんも、苦労が絶えません。
心無い人にひどい事を言われたり、後をつけ回されたり。ストレスで胃潰瘍にもなりました。
それでもおばさんは通ってきてくれます。
蚊に刺されながら、野良猫たちのすみかの草取りもしてくれます。
きれいにしていないと、また心無い人に中傷されてしまう。
おばさんの土地でもないのにね。
猫のことでいじめられ、あまりの苦しさに歯を食いしばったら、おばさんの歯が折れてしまいました。
それほどおばさんは苦しんでいるのです。
三吉もおばさんのことが心配です。
野良猫たちを助けてあげようと思うと、周りと摩擦が生じる。
野良猫たちから手を引けば、自分の心の中に摩擦が生じる。
八方塞がりの、どうしようもないものに押しつぶされそうになるという。
そんなおばさんの苦しみを見て、「宗教に入っていっしょに祈りませんか?」と誘ってくれた人がいたそうだ。でも、おばさんは断った。ただ祈っていても何も解決しない。なにかを救おうと思ったら、それは祈ることではなく、実際に泥にまみれて身体を痛めつけることだからと。
page 149
猫の三吉は、ただただ頭を垂れるしかありません。
最後に。
猫おばさんからのお願いです。
一生懸命に生きている野良猫たちを、好きになってください。
page 4
(2007.8.25)

中川智保子『猫おばさんのねがい』

中川智保子『猫おばさんのねがい』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫おばさんのねがい』
負けられない、やめられない。
- 著:中川智保子(なかがわ ちほこ)
- 出版社:ハート出版
- 発行:平成19年(2007年)
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:9784892955525
- 204ページ
- モノクロイラスト(カット)
- 登場ニャン物: 三吉、アネチャン、クロ子、シロクロ、クッキー、ドラ、ノンコ、キクチャン、その他多数
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- まえがき
- バラの花の巻
- 俺の住みかは幽霊屋敷
- 毎晩やって来る猫おばさん
- おばさんが猫おばさんになった理由
- その他
- 赤とんぼの巻
- 動物のいる学校
- おばさん家の飼い猫たち
- 目の形でわかる猫の境遇
- その他
- お月さまの巻
- アネチャンの死
- 猫神様のお陰
- 深い秋の悲しみ
- その他