大島弓子『グーグーだって猫である』全6巻
限りなく優しく、限りなく愛おしく。
実は私、大島弓子氏の猫マンガは苦手だった。
氏の猫マンガが常に高い人気と評価を誇っていたのは知っている。だから期待をこめて『綿の国星』(1978年~)のさわりと『サバ・シリーズ』(1985年~)の一部を読んだのだが・・・
ごめんなさい、どうしても受け入れられなくて・・・
私にとって、ネコこそは、地上でも最も完成されたフォルムを持つ、最も完璧で、最も美しい生き物なのである。
それに対し、ヒトは、あまりに不格好で、あまりに醜い。
猫がヒトに化けて活躍するなら、ヒト型であっても全然かまわない。猫が猫型のまま、ヒトのように直立二足歩行したり言葉を話すなどの擬人化も、全然かまわない。
けれども、猫が、あくまで猫として、猫のままで居続けているのに、その姿形だけがヒトのような醜いモノに描かれるなんて!
私にはどうやっても受け入れられなかったのである。なんというか、まるで、・・・そう、たとえば『クレオパトラ』の映画が、通念通り絶世の美女のストーリー設定なのに、そのクレオパトラ役が、デブでハゲの中年男が厚化粧で演じているかような・・・どれほど名演技でも、どれほど素晴らしい脚本でも、どれほどメークさんが頑張っても、もし主役のクレオパトラが、体重100kgの脂ぎった女装男優だったら・・・
大島氏や、大島ファン(ものすごく多い)には、本当に本当に申し訳ないのだけど、私には、ヒト型の猫なんて、デブハゲ男のクレオパトラのように、奇怪な存在に見えて仕方なかった。読み続けることができなかった。おそらくこれほどの違和感を感じてしまうのはしかし、日本広しといえども、私だけなのだろう。他ならぬ大島ファンの多さが、私の感覚の方が稀であることを証明している。
しかし、・・・とまあ、そういう変な先入観があったので『グーグーだって猫である』の評判を聞きつつも、ずっと食わず嫌いしていたのである。『グーグー・・・』では猫は擬人化されていないと聞いた後でさえ、開く気になれなかった。
その『グーグー・・・』が映画化され、偶然予告篇を見た。映画を見たいと思った。
私の昔からの習慣で、原書のある映画は、まず活字で読む。それから映画を観る。『グーグー・・・』の映画を観るなら、その前にどうしてもマンガの『グーグー・・・』を読破しなければならない。
仕方なく、本を手に取った。何年もも本棚に積読されていたのだった。
グーグーをはじめ、猫達は全員、ちゃんと猫の姿で描かれている(思い出の中のサバを除き)。安心して全巻6冊、1日で一気読みした。そして目が覚めた。
すんばらしい猫マンガではないか!
まずは、グーグー。ペットショップで購入された純正アメリカンショートヘアーなのだけど、これが意外にも、うちのトロに良く似ているのだ。
(この猫は)たしかに おもしろい という点では アタリかも しれないよ
(第1巻 p.20)
・センメンキにお湯をいれておいたら いつのまにか入浴している ← トロも入浴したあげくお腹をこわした
・人体でロッククライミングはするし ← トロも若いころは私の体をいつもよじ登っていた
・野菜はバリバリ食うし ← トロも生野菜をバリバリ食う
・ウンチ・ハイになるし ← 16歳になってもトロのウンチ・ハイ癖は止まらない
そして何より、子猫好きで、拾われた子猫を甲斐甲斐しくお世話する雄猫、ってところがソックリ(うふふ)
ビーは、瀕死の状態で保護された子猫だ。グーグーはこのとき、初めて子猫を見たはずなのだが(自身が子猫時代を除き)、すぐに仲良しになったどころか、まるでお母さんのように可愛がる。ビーもべったり懐く。幼いビーは雄猫グーグーのおっぱいを吸おうとするが、もちろん吸えない。そこでビーはグーグーの毛を束でくわえてチュパチュパする技を考案。グーグーはやさしく授乳体勢をとりつづけ・・・って、うちのトロと保護子猫たち、そのまんまじゃないの♪
また、あるとき、著者は全身を猫疥癬に侵された子猫に出会う。献身的に看病する著者。すでにまり様、きな様も書かれているけれど、この場面は涙無しには読めない。
しかも、この子猫、タマは、・・・
目は左目が 陥没していますね (中略)
それに両眼の 虹彩と網膜に 異常があります ぼんやりした光と影は 見えると思いますが 形をしっかり見ては いないと思います
(第2巻p.116)
って、それ、うちのくるるんと同じ!
うちのくるるんも、保護時にはすでに目をやられていて、左目は委縮して失明、右目は狭窄した視野でぼんやり光と影を感じるだけだ。また、病院で注射針を刺された瞬間、叫んで飛び逃げようとするのも同じ。目が見えない猫は皆、こういう行動をとるのか。
そして、元気いっぱい、知らない人がみたら目が見えないとは全然気づかないほど、ふつうに生活するようになる点もまったく同じなのだ。猫を飼うことを考えている里親希望様、もし『グーグー・・」を読んだなら、ぜひ目の見えない子猫を優先してください。目の見えない猫は、生活の上では目の見える猫と同じ、性格の上では目の見える猫より甘えん坊で愛くるしい子に育ちます!
著者の体に、ガンが発見された。入院、手術、長期にわたる抗癌治療。著者は遺書を書く。猫達のことを第一に考える。この心配り、優しさ、強さ、ぜひ見習いたい。
無事治ると(よかったぁ~)・・・なぜか、ますます猫が集まる!次々と捨て猫を拾ってしまうのだ。最終話では、総勢12ニャン。
そして、最終話。また泣かされました。わずか5ページ、実質4ページの短い章ですが。
とにかく、お勧めです。大島氏の独特な雰囲気がありますので、少女マンガが苦手な人には、なじみにくいかもしれません。でも、猫と暮らしている人はもちろん、今は猫がいない人も、ぜひお読みいただきたい作品だと思います。「命」とはなにか、あらためて考えさせられる作品です。本当に、お勧めです。
(2015.4.22.)
*上↑で思い切り個人的な感想を書いちゃったので、ついでに追記。上記よりもっと個人的な感想だから、あえてこんな下に書くことにする。
大島氏は幼い5ニャンを見つけ保護する。無事全員が新しいおうちに其々旅立ったあとの一コマ。
ええ そう これでやっと 分かったわ
子猫は物品じゃない 愛する子なのだ
手放した者は もらい手先での状況を なんでもいい ”子猫が転んだ”でも ”食事をした”でも ”眠っている”でも
ひとことでも ふたことでも 知らせて欲しいと ひたすら願っているもの なのだ
(第3巻 p.72)
そう、そうなんです、本当に、その通りなんです・・・・
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『グーグーだって猫である』
全6巻
- 著:大島弓子(おおしま ゆみこ)
- 出版社:角川書店
- 発行:2000年(第1巻)~
- 初出誌:ヤングロゼ1996年~1997年、本の旅人1997年~
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:4048532588 9784048532587(第1巻)
- モノクロ
- 登場ニャン物:グーグー、ビー、タマ、クロ、こなつ、銀糸、冬太郎、ハナ、モーモー、ラテ、ジミヤマ、他多数
- 登場動物:-
【推薦:すみれ様】
大島弓子さんのまんがの時代を過ごしてきました。
難解なものも多くて、「いちごとクッキーを食べるとわかる・・・逆に食べちゃだめ・・・」みたいなくだりが未だになんのこっちゃわからなくてもやもやしています。 誰か教えてください。 (何の話か分かる人にはわかる…と思う)
綿の国星も読んでました。
ペットとしてあまり猫が好まれなかった時代に、人間化したのがヒットの要因だったんですよね。 今思うに、主人公猫はぴこたんみたいだな~
グーグーの話は猫と暮らす幸せと不安が表裏一体である私たちには心から共感できますね。 大島さんの癌が再発しないことを祈ります。
今勤めている職場の一帯は外猫が多いです。 みんな薄汚れています。街中で車の通りも多いです。 室内飼いはほんとになかなか一般化しません。
(2015.5.28)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。
【推薦:きな様】
『グーグー~』は猫本オールタイム・マイ・ベストなんです。嬉しいな。3巻の出版、まだまだ先のことになると思いますが楽しみですね!
・・・じつは掲載誌を購読&ファイルしています。その後のタマちゃん、すっかり元気になるんです。そして大島さんはまたも子猫を5にゃん保護します。
その里親探しの顛末・・・やっぱり涙なしには読めません。
大島さんは、『綿の国星』の頃は普通に猫が好きな人という印象がありました。でもサバとの出会いとふたりで暮らした日々の中で変わっていらしたんですよね。。。
『グーグー~』にはタカラモノのせりふがたくさんあります。
たとえば第1巻の69ページ一番最後のコマ。これは猫と暮らす人みんなに共通する思いでしょうが、こんなに簡潔にストレートに胸を打つ言葉に出来るのって、大島さんならでは、と思います。
第2巻では、なかなか疥癬がよくならないタマちゃんに新しい病院を見つけてあげるところの「タマ いい病院があったよ ちょっと遠いからタクシーに乗ろう あったかくしてね きっと良くなるよ さあ行こう」・・・何度読んでも泣けてきます。
(2003.6.24)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。
【推薦:まり様】
擬人化して描かれた綿の国星やサバシリーズと違い、等身大の猫として描かれています。
2巻は作家の闘病生活が中心ですが、疥癬猫タマとの出会いは涙なしに読めないはずです。
(2003.6.24)
【『綿の国星』の推薦:まり様】
リアルタイムに雑誌「LaLa」で読んでいました。
その中で何年たっても忘れなかったのがこの中の「葡萄夜」というお話です。
おばあさんと暮らしていたために、化け猫に間違われるような身なりの若猫タマヤ。
病院に入ったまま死んでしまったおばあさんにひと言を言って貰おうと幽霊のおばあさんに会いたいと願っています。
私は、今でもこれを読むたびに泣けます。
(2004.02.17)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。