佐藤良夫『カタカナの墓碑』

佐藤良夫『カタカナの墓碑』

 

実験動物たちが、すこしでも楽にすごせるように尽くした英国人女性。

佐藤氏は大阪大学医学部で40年近くという長期に渡って動物実験にたずさわってきた人である。

40年前の日本では、動物実験の現場はそれはひどかった。動物達は物以下に扱われ、誰も動物達のことなど考えていなかった。動物達は屋上の小さなケージに入れられていたが、そこは吹きさらしで風雨を遮るものさえなく、動物達は実験に供される前に寒さ・暑さや病気で衰弱死する子が後を絶たなかった。実験室も不衛生極まりなく、床は汚物で覆われ、タイルが見えないほどだった。

そのころの日本人は誰もがそれを当然と思っていたのだ。
その程度の意識しかなかったのだ。

そんな実験室に、若いイギリス人女性が現れた。
名前はアン・ロス。
イギリス動物福祉協会のメンバーだった。

日本のひどい有様を聞いて心を痛めたアンは単身日本に来日し、たったひとりで動物達のために働き始めたのだった。動物達1頭1頭に優しく声をかけて回る。汚い床にはいつくばって掃除する。数時間後には殺されると分かっている動物にもアンは優しかった。動物達はアンになついた。

それを見た佐藤氏は大きなカルチャーショックを受ける。そして、アンのやり方こそ本来あるべき姿だと反省する。

アンは、しかし、激務が祟って体をこわし、帰国後に若くして亡くなってしまった。

佐藤氏はアンの意志を受け継ぐことを決意する。当時の日本では実験動物の福祉なんか顧みられたことはなかった。佐藤氏は孤軍奮闘を続け、そして日本にも、やがて少しずつ、本当に少しずつだが、どうにか福祉の理念が広がっていく・・・

この本は、佐藤氏によるアンの思い出の記録である。アンとの出会い、突然の帰国、そしてイギリスでの墓参りの話などが語られている。HPで知っている内容だったのに、活字で読むと又涙がでてしまう。

この本で少し残念だったのは、アンとの思い出事ばかりが語られているということ。終末に少しだけ「救われた実験犬ゆきちゃん」の事が触れられ、巻末にゆきちゃんの写真が6ページ分掲載されているが、それ以外の内容は、アンの思い出に終始している。この本の主役は間違いなく、動物達ではなく、アンという女性だ。

さらにこの本の特徴は、日本語で書かれた本文の概要が英文で38ページも使って繰り返されていると言うことだ。正直、私には、なぜこの英文がここにあるのか良く理解できなかった。

否、佐藤氏の気持ちは分かるのである。アンの御母様にこの本をお見せしたいのだろう。 が、私には、この英文ページが勿体なく思われた。別内容ならともかく、本文と同じ内容を繰り返しているだけでは、難解な英文をわざわざ読む人は少ないだろう。

それより同じ紙数を使って、動物実験の実態についてもっと書いて欲しかった。たとえば、動物実験史とか、代替法についてとか、あるいはゆきちゃんのような犬を増やすにはどうすればよいかとか。動物実験の実務経験者でなければ書けないような知識をもっと披露して欲しかった。
もしそれが佐藤氏の現立場上は難しいというのであれば、せめて一般的な公開資料でもよい、例えば世界各国の法規の比較表など、何か載せられなかったのか?
日本に動物実験を規制する法律はあるのか、それとも、誰でもいつでも自由にどんな実験をしても良いのか。

この本には、そういうことは何も書いていないから、せっかく本を読んでくれた人も、「でもこれは40年も前の話でしょ?」で終わってしまうのではないかと、私はそれを危惧するのである。

・・・現在の日本には、動物実験施設や管理についても、動物実験計画についても、動物実験者の免許や資格についても、動物実験対象動物についても、法的規制はなかったと思う。それに対し、ヨーロッパ諸国ではほとんどの項目が許可制だったり資格が必要だったりする。またアメリカでは第三者(獣医師を含む)による委員会の設置や立ち入り検査などが義務づけられている。日本がいかに遅れているか、そういうことも、この本でもっと言及して欲しかった。

*その後、佐藤良夫氏ご本人からご連絡がありました。その後の実験動物福祉についても原稿では書かれていたそうですが、出版社によって削除されたとのこと。理由は、続編を出版するかもしれないという予定(その時点では未確定)があるからとか。出版社はなんて愚かなことをしたのでしょう。読者を馬鹿にしていると思います。情報を小出しにして、薄めて引き延ばしてページを埋めるなんて方法は、やすっぽいテレビだけでたくさん。書物には、そのときあるだけの情報を思い切り詰め込んでください。そうしてはじめて読者は「この本は一生手放さない」と感動するのです。

*続編出ました
『生まれて初めて空をみた』

(2004.9.22)

佐藤良夫『カタカナの墓碑』

佐藤良夫『カタカナの墓碑』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『カタカナの墓碑』

  • 著:佐藤良夫(さとう よしお)
  • 出版社:ジュリアン出版局
  • 発行:2004年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4902584026 9784902584028
  • 141ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

第1章 黎明
実験助手時代
公務員一年生

第2章 転機
アンとの出会い
真のテクニシャン
ほか

第3章 墓参
イギリスへ
初対面
ほか

終章 未来へ
実験動物の環境改善
キャサリン・ロスの手紙
ほか

英語版
Epitaph in Katakana — For Anne and My Son

オリの中からのメッセージ 亀井一成

著者について

佐藤良夫(さとう よしお)

大阪府堺市生まれ。大阪大学医学部で、長年動物実験にたずさわる。アン・ロスに出会って、実験動物に対する福祉に目覚め、環境整備の改善、福祉精神の普及などに活躍する。現在、HP『カタカナの墓碑』を運営すると同時に、講演活動などにも活躍。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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佐藤良夫『カタカナの墓碑』

佐藤良夫『カタカナの墓碑』
6

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面白さ

6.5 /10

猫好きさんへお勧め度

5.0 /10

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