『生まれて初めて空をみた』
副題:『セラピー犬〈ゆき〉誕生物語』。
本来なら『カタカナの墓碑』の続編または姉妹編とうたうべき内容の本。なぜそう書いてないのかな?
日本の動物実験現場には、つい最近まで、動物福祉の考え方がなかった。実験動物達はビーカーやフラスコと同じ道具扱い。道具なら、使えるだけ使って、不要になれば捨てる。実験動物達も、不要と判断されれば・・・
2002年の暮れ、O大学の事務局に、ある電話が掛かってきたことが事件の発端だった。日本では犬には狂犬病ワクチンをほどこすことが法律で決められている。実験動物といえども犬は犬。もし狂犬病予防されていないのなら、狂犬病予防法違反ではないか、という指摘だった。
O大学が調べた結果、実験動物達の中で12頭の犬たちが、ワクチンを受けていないことが分かった。
大学は決定した。
「12頭全犬を処分せよ」。
ここで私の頭は忽ち混乱する。ワクチンを受けていないなら、受けさせれば良いだけの話ではないか?なぜいきなり殺す必要があるのか?本の中では何も説明されていないから詳しい事情は分からないのだが、その点がどうしても理解できない。予算の関係?狂犬病ワクチン代なんて3000円程度。12頭で36000円。そのくらいの予算なら組めるでしょう。どうしても組めないなら大学内で募金を募ればよい。たかが36000円、たちまち集まるはずだ。もし私が研究所職員なら、自分がかかわってきた犬たちを救おうと、喜んでポケットマネーから全額出しますけれどね。
O大学に勤める佐藤氏(「カタカナの墓碑の著者」)は、この決定を聞いて、しかし黙って見殺しにはしなかった。なんとか助けようと奔走する。佐藤氏の要請を受けて、日本レスキュー協会が動き出す。まだ設立されたばかりの協会だった。協会としてもすべて初めての試みであった。
結果的に、1頭の犬が救い出される。たった1頭だったけれど、この成功はある意味で大事件でもあった。大学の実験動物が大学外に譲渡されたのは、これが初めてのケースだったからだ。
さて、救い出された犬は全身真っ白だったので、「ゆき」ちゃんと名付けられ、セラピー犬になるトレーニングを受けることになった。ずっと実験室の狭いケージの中で暮らしてきたゆきちゃんにとって、それは大変なことだった。
本の後半はゆきちゃんと訓練士永池氏の記録だ。ゆきちゃんがゆっくりながら確実に心を開いていく様子が詳しく書いてある。訓練は普通の犬の2倍以上もかかったけれど、最後には立派なセラピー犬として、お年寄り達に愛されるようになる。無表情だったゆきちゃんが、幸せそうにシッポを振るようになった・・・
大きな字で、やさしい文章で書いてあるから、子供でも読めると思います。頭の柔らかい子供にこそ読んで欲しい。
(2005.5.5)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『生まれて初めて空をみた』
セラピー犬〈ゆき〉誕生物語
- 編:ジュリアン出版局
- 出版社:ジュリアン
- 発行:2004年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
- ISBN:4902584034 9784902584035
- 182ページ
- カラー口絵
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:犬
目次(抜粋)
第1章 ケージの中で生まれ育って
第2章 生まれて初めて空をみた
第3章 ゆきと永池の訓練日誌
第4章 人の愛に包まれて
セラピードッグ一年生―――あとがきに代えて