渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

 

日本の動物愛護の現実を突きつけた本。

内容的には、大きく二部に分けられると思う。

「第一章 踏み出した一歩」は、動物を保護した人々の話だ。感動エピソードの連発である。人によっては涙が止まらなくなるかもしれない。

ごくふつうの人が、ある日突然、事情のある犬や猫に出会ってしまった。
あるいは、ごくふつうの人が、ある日突然一念発起、動物たちを救う活動を始めた。

大変なことだらけだ。周囲からみれば、どうして犬や猫のためにそこまでと理解できない人だっているだろう。けれども、それ以上に多くの方が、感動し、勇気づけられ、自分もこうしちゃいられない頑張らなきゃ!と思うにちがいない。

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

第二章以降は、雰囲気が変わる。著者の熱心な取材と膨大なデータに裏付けられた、気迫にあふれた文章。エッセイというより、ルポルタージュと表現する方がふさわしい内容。読んでいると、著者に噛みつかれるのではないかと思うほど。それほどの熱意だ。

これほどまでに著者が伝えたかったもの。それは、ただもう、動物たちを救いたい!救いたい!救いたい!それだけなのである。

著者は、ボランティア団体を取材する。活発に活動している人たちに、話を聞いてまわる。猫たち犬たちのために、どうしてそこまでできるのか、文字通り身も心も削っての活動。何が彼ら彼女らをそこまで動かせるのか。

「初めてお目にかかる方に『あなたは、よほど動物が好きなんですねえ』って、よく言われます。社会的な問題ですと説明してもご理解いただけないときには『それは非常に失礼な言い方で、たとえば高齢者や障害を持つ方の福祉に携わる人に、老人が好きなのね、障害者が好きなのね、とは仰らないでしょう』と、具体的に説明しています」
page72

単なる「動物好き」、それだけじゃだめなのだ。「好き」よりもっと大きな目標、「好き」を超えた巨大な理想があるのである。

著者は、保健所など行政のセンターにも出かけ、しつこく食い下がって、話を聞く。多くの自称動物愛護家が敬遠する場所ではある。しばしば憎悪の対象とすらなる場所である。けれども、何回も通い、何人にも取材した著者には、行政側の人間たちの苦悩もよく理解できるのだ。彼らのおかれた厳しい状況にも、保護団体にも、平等な視線を向けていく。

動物愛護団体から、炭酸ガスの使用をやめるようにと迫られることも、ままある。彼らは一頭ずつに注射による安楽死処分を施すべきと言う。
「一頭ずつだなんて、冗談じゃない!元気な若い犬を捕まえて、嫌がって暴れるのを無理矢理押さえつけて、怖がって震えて啼き叫ぶのを注射を打って殺すなんて、こっちの神経が保(も)ちませんよっ!」
page124

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

悪いのは、保健所に犬猫を持ち込む飼い主。
悪いのは、間違った思想で愛犬愛猫に不妊手術もさせず、安易に産ませてしまう飼い主。

先生の言葉は歯切れ良く、すっきりと痛快である。
「ひとこと『飼うな』です。犬を飼うのは贅沢なことです。時間も、お金も、体力もかかる。生半可な気持ちで飼わないでもらいたい。覚悟のない人は、お願いだからロボット犬やヌイグルミで満足してほしいです。たまに『子供がグレたから、犬でも飼おうかと思う』っていう親御さんがいますけど『同じ人に育てられたら、犬だってグレるわい!』って言いましたよ!」
ほとんどの人は正しく飼えないのだから、きちんとしつけされた犬が近隣に一頭いて、その子をみんなで可愛がればいいではないかと言う。解放している病院には、保護してしつけた犬たちに会いに来る子どもたちが、始終出入りしている。
page169

著者は取材を重ね、日本の後進ぶりを、これでもか、これでもかと暴いていく。目を覆いたくなるような現状が、つぎつぎと展開される。

正直、この本を最後までじっくり読むのは、なかなか大変である。気力が必要だ。途中で投げ出してしまう人も少なくないのではないだろうか。それほどまでに重い内容だから、それほどまでに悲惨な現実だから。

でも、読んでほしい。
もしあなたが、動物が好きと自称しているのであれば。少しでも動物たちのことを考えている人であるのならば、最後まで読んでほしい。

幸いなことに、この本が書かれてから、日本の現状は少しはよくなっている。大幅に良くなった、とは全然言えないのが残念だけど、けれども、この本のままではない。行政による年間殺処分数はゆっくりとだが減少し続けているし、動物愛護法違反で逮捕される例も増えてきた。

とはいうものの、その歩みはきわめて遅い。歯がゆいことこの上ない。

さらに、あらたな問題も顕在化してきている。

たとえば、単なる「インスタ映え」「SNS映え」だけのための、安易な飼育。見栄えの良い流行品種の子猫・子犬をチャラチャラともてはやして、「映え」なくなったらネグレクト、最悪捨てる。

たとえば、高齢者の高齢犬猫問題。飼い主が死亡したり、施設に入所したりして、高齢なペットが取り残されると、その里親探しは難航する。

たとえば、多頭飼育崩壊。社会的に孤立する人が増えるほど、多頭飼育崩壊も増えるようだ。多頭飼育崩壊現場は凄惨のひと言に尽きる。人も動物も、ひたすら苦しむ。その救済も、想像を絶する困難さだ。

繰り返しになりますが、どうぞどうぞ、読んでください。
読んで、動物たちのことを、もう一度、考えてあげてください。

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『小さな命を救う人々』

  • 著:渡辺 眞子(わたなべ まこ)
  • 出版社:角川文庫
  • 発行:2004年
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784043770014
  • 233ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

はじめに

第一章 踏み出した一歩
第二章 現在と向き合う
第三章 生きるチャンス
第四章 命が交差する場所
第五章 共に生きるということ
第六章 心の時代に

感謝にかえて
文庫のあとがき
参考文献

著者について

渡辺 眞子(わたなべ まこ)

著書に『犬語で I Love You』『I Love ポゴ』『捨て犬を救う街』『そこに会いがありますように』『りっぱな犬になる方法 バイリンガル版』(きたやまようこ著・渡辺 眞子英訳)、など。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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渡辺 眞子『小さな命を救う人々』

8.5

動物度

9.5/10

面白さ

6.0/10

考えさせられる

9.5/10

猫好きさんへお勧め度

9.0/10

渡辺 眞子『小さな命を救う人々』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:ゆきこ様】
    「小さな命を救う人々」渡辺眞子著、もう読んでらっしゃるかもしれません。
    いつもはこの手のは満腹状態で読まないんですが、たまには勉強のためにと先日購入しました。この中には劣悪飼育者等から犬猫を救った人達のお話がたくさん載ってました。
    私は本気でやれば何でもできるのだと思います。(現在犬猫保護に奔走している)猫友にも遠くからですがエールを送りたいと思います。
    (2004.12.16)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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