西山ゆう子『小さな命を救いたい』
副題『アメリカに渡った動物のお医者さん』。
日本の、前時代的な獣医学の世界に、すっかり嫌気がさしてしまった西山先生。自殺を考えるほど思い悩んだ挙句、何もかも捨てて、単身アメリカへ飛び立ちました。ツテもアテも、アメリカでの獣医師免許もない、英語もカタコトしか話せない、究極の一人ぽっち状態。なにはともあれまずは生活の糧を得なけえればなりません。掃除婦でもよいからとロサンジェルス中の動物病院に履歴書を送り、手あたり次第に電話しました。
運よくある動物病院が雇ってくれました。それからは、日中はアニマルテクニシャンとして働きながら、夜は猛勉強。ついにアメリカでの獣医師免許も取得します。
アメリカは自由の国でした。ユウコが有能だと認められると、順調に昇進もできました。年功序列も女性差別もない、自由な国。息苦しいだけだった日本となんという差!ユウコ先生は、水を得た魚のように、いきいきと働きはじめます。
動物愛護の点で、アメリカは日本より、はるかに進んでいました。獣医学の世界も、総合的に見るホームドクターから、各分野に特化した専門医まで、うらやましい充実ぶりでした。
それでも。
アメリカ人でも、不妊去勢手術を怠る飼い主はいます。アメリカ人でも、動物を正しく飼養しない人はいます。簡単な予防で防げた病気を放置して、重症になってから駆け込んでくる飼い主がいます。日本人より安易に安楽死を選ぶ傾向があるのも事実です。
本は大きく2つに分けられます。
第一章~第三章は、動物のお医者さんとしてのエッセイ。病院での日々のようすが、明るく語られています。後半第四章~第六章は、もうすこしまじめな、獣医師としての話。不妊去勢手術と、ペットの整形手術と、安楽死に関する考証です。
とくに、第四章『不妊・去勢手術Q&A ―――不幸な命をなくすために』は、力が入っています。ほかのページがふつうに一段組なのにたいし、この章だけ2段組みで、字もひとまわり小さい。ほかのページは、一般飼い主にもわかりやすいよう、専門語は少なく文章も平易で親しみやすいのですが、この章だけは、病名がズラリと並び、専門的な説明も躊躇せず。なんというか、いままでソファの背もたれにゆっくりもたれながら談笑していたのが、突然身を乗り出して熱弁をふるいだした、って感じです。
それだけしてほしいのでしょう。不妊去勢手術。それだけ、大切なことと認識されているのでしょう。犬猫と暮らすなら、必ず手術してほしいのでしょう。
全部で20ものQ&Aです。不妊去勢手術のメリットを説く獣医師やボランティアは多いですが、ほとんどの場合、そのメリット・デメリットを箇条書きにするか、それに簡単な説明を加えているだけです。せいぜい10ページくらいです。
なのに、この本では、この章だけ2段組み+小さい字で、119p~176pと57ページも使っています。力の入れ方がわかるってものです。
ぜひ、この章を時間をかけて、じっくり読んでください。残念ながら世の中には、少なくともこの日本においては今でも、不妊去勢手術に反対の人が多くいます。反対というより、そもそもそういう概念すらない人もいます。そして我が日本は、天災の多い国です。大地震、台風、豪雨、火山の噴火。そのような大規模な災害でなくても、火事や事故、突然の病気など、いつなにが起こるかわかりません。
何があっても、猫たち犬たちを守るために。不妊去勢手術は、ぜひとも必要なのです。どうしても必要なのです。手術してあげてください。
つぎの章『ペットの整形手術』とは、断尾・断耳や、猫の爪除去手術等のことです。人間のエゴで、幼い犬の尾を切ったり耳を切ったり、そんなことは止めましょうという章です。
最後の第六章『安楽死』の章、これは考えさせられますね。この章で西山先生が一番伝えたかったのは、「安楽死を予防するため、あなたにできること」の小章でしょう。
全体的な感想は、この先生は「動物を救いたい」ただもうその一心だけなんだな、ということでした。世界中のすべての獣医師が、こんな先生ばかりなら良いのに!
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『小さな命を救いたい』
アメリカに渡った動物のお医者さん
- 著:西山ゆう子(にしやま ゆうこ)
- 出版社:エフエー出版
- 発行:2001年
- NDC:913.6(日本文学)小説 914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:9784872080704
- 244ページ
- 登場ニャン物:
- 登場動物:
目次(抜粋)
第1章 私は動物のお医者さん
第2章 小さな命を救いたい
第3章 絶望、そして再出発
第4章 不妊・去勢手術Q&A―不幸な命をなくすために
第5章 ペットの整形手術は必要ですか
第6章 あなたがペットの安楽死を決断するとき
【推薦:たか様】
アメリカで臨床している日本人獣医さんが書いた本です。うちの猫は、この獣医さんにかかっています。
私たちの大切な犬猫についての正しい理解、ケアについて説明されている一方、日本からアメリカに渡り、臨床されている日々の生活を書かれています。涙なしでは読めない箇所もあります。ペットのいる家には、一家に一冊の本です。また、大切なことは何かを考えさせられます。
是非、みなさん、先生の本を是非読んでください。 先生のサイトも訪問してください。「黒猫ブラッキーの物語」という感動スライドショーが上映されています。
(2004.06.15)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。