横塚眞己人『いりおもて』
副題『海と森と人と山猫』。西表島の写真集。
水牛がいる。
マングローブの林がある。
昼間でも薄暗いうっそうと茂った密林がある。
イノシシがいる。
ヘビがいる。
色鮮やかな鳥がいる。
それらを見つめる、二つの光る目をもつ獣がいる。
イリオモテヤマネコである。
大判の写真集。
縦約25cm×横約27cm。ページ数はふってないが、120ページくらいだろうか。
西表島(いりおもてじま)は、沖縄島から南西へ約400キロメートルの洋上にある。
東京からだと、遠路約2000キロメートル。
対し、台湾までは、たった約190キロメートルと、日本本土より台湾に近い地理だ。
年間降水量は2,000ミリメートル超。
「湿潤亜熱帯気候」に属する。
沖縄県では、沖縄島のつぎに大きな島である。
とはいえ、その面積は、わずか284平方キロメートル。(注)
広島県尾道市や、茨木県つくば市とほぼ同じくらいの大きさしかない。
イリオモテヤマネコ等、ユニークな生態系をはぐくむ地として考察するとき、不安になるほど小さな島と言わざるを得ない。
そんな、南方の孤島の魅力を、これでもかと引き出した写真集。
写真を見ているだけで、ギラつく太陽の熱風が感じられるようだ。
写真を見ているだけで、磯の香が鼻孔に充満するようだ。
中でもド迫力なのが、いうまでもがな、イリオモテヤマネコ。
イエネコと大して変わらぬ体格のはずなのに、この風格は、なんだろう。
この威圧感、この、すさまじいほどの野性味はなんだろう。
イリオモテヤマネコの魅力をここまで引きだせるカメラマンなんて他に知らない。
圧倒的なまでの存在感。
イリオモテヤマネコ。
歴史的にはごく最近、1965年に発見されたばかり。
もちろん、以前から島人の間では、その存在は知られていた。
が、生物学上、種として正式に認定されたのは1967年だ。
その特徴があまりに古代獣的なことから、「20世紀最大の発見」とまで騒がれ、他のヤマネコたちとは別の一属一種に分類されたりもしたイリオモテヤマネコだが、その後のDNA検査では、ベンガルヤマネコの近種または亜種との研究結果が発表されてもいる。
が、そんな、ニンゲンたちの分類騒ぎなんて、どうでもよい。
イリオモテヤマネコは、凛として黙々と、西表島で暮らしている。
密林の奥で、鋭く目を光らせている。
日本が世界に誇る、小さな肉食獣。
イリオモテヤマネコと西表島に拍手を送りたくなる本だ。
こんな写真に魅せてくださったカメラの腕にも感嘆。
(注)西表島の面積について、本書その他では約284.44平方キロメートルとされていますが、国土交通省国土地理院 公式ホームページその他では、約289.62平方キロメートルとなっています。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『いりおもて』
海と森と人と山猫
- 著:横塚眞己人(よこつか まこと)
- 出版社:小学館
- 発行:2002年
- NDC:
480(動物学) 489.53(哺乳類・ネコ科) 645.6(家畜各論・犬、猫) 726(マンガ、絵本) 748(写真集) 913.6(日本文学)小説 914.6(日本文学)随筆、エッセイ - ISBN:409681511x 9784096815113
- ページ
- カラー
- 登場ニャン物:イリオモテヤマネコ
- 登場動物:多数