ビートン『アガサ・レーズンと猫泥棒』

ビートン『アガサ・レーズンと猫泥棒』

 

シリーズ『英国ちいさな村の謎2』。

アガサ・レーズン・シリーズの2冊目、ドタバタ喜劇風ミステリー小説。 1冊目は「アガサ・レーズンの困った料理」。

アガサ・レーズンは、50代の英国人女性。広告会社のやり手社長としてバリバリ働いていた。勝気で行動力バツグン、しかし夫も子供もいない。

そのアガサが、コッツウォルズに古いコテージを買い、突然引退してしまった。

コッツウォルズは、古き良き時代の大英帝国をそのまま田園風景に閉じ込めたような、英国一美しいといわれる地方である。アガサは労働者階級出身で、その事に常にコンプレックスを感じていた。事業で成功し、それなりのお金と評価を手にした後も、コンプレックスは消えなかった。あの美しいコッツウォルズに家を買って、優美な引退生活を送ること、それこそがアガサのコンプレックスを解消できる唯一の道だと信じて、ずっと頑張ってきた。

その長年の夢がようやく実現したのである。アガサは意気軒昂、鼻息も荒く、引退生活に入る。

ところが。

このイギリスの小さな田舎町は、超閉鎖社会だった。人間関係は面倒くさく、村人たちとは趣味もテンポも違いすぎ、何もかもが退屈で場違い。アガサは茫然とし、たちまちロンドンの中心街に逃げ戻ろうとするが、大都会にもすでにアガサの居場所はなく。

そんなアガサが、なんと殺人事件に巻き込まれる。持前の好奇心と行動力、そして何より、時間と退屈を持て余していたアガサは、事件解決に大奔走。殺されそうになりながらも、ついに犯人をあげてしまう。

犯人逮捕はアガサのお手柄ではあったけど、でしゃばりすぎる素人探偵に、警察は大弱り。地元刑事のウォンは、そんなアガサになぜか子猫をプレゼントする。〝殺人犯を追いかけるより、オバサンらしく猫でもかまっていろよ〝という意味か?(本にはそんな事は書いてないが)。

と、ここまでがシリーズ1「アガサ・レーズンの困った料理」。

本著とは一見関係のないことを、なぜこんなに長々しく書いたかというと、上記の経緯を知らなければ、愛猫家の皆様はきっと、なぜアガサのようなパワフルなオバサンが猫を飼っているのか不思議に思われるだろうし、また、本著中の猫の扱いに疑問を抱く場面もあるだろうからだ。

そう、アガサは、猫好きな中高年女性って雰囲気ではない。もし何か動物を飼うとしたら、キャンキャンうるさい小型テリアかパグって感じ(あくまで私の個人的イメージだが)。

さて。

アガサの近所に、獣医が引っ越してきた。ハンサムな独身男。さっそくアガサはドレスアップして(50代といえど独身女性にかわりない)、猫を小脇に動物病院へ突進する。待合室には、同じようにドレスアップした女性でいっぱい。ようやく診察順がまわってきて、

「とても健康そうに見えますよ。どこが悪いんですか?」
「ええと、その、食欲がないんです」

彼の猫の扱いは乱暴で、獣医らしくもないと、アガサは疑問を感じるが、食事に誘われると、そんな疑問は吹っ飛んでしまう。

ところが、間もなく、ブレイデン獣医師が死んだ。

不運な事故と、最初は誰もが思った。警察でさえ事故と見なした。が、アガサはそんなこと信じない。あらゆるところに鼻を突っ込み、走り回り、嗅ぎまわって、またもや大活躍!

なんとも威勢が良いというか、強引というか、けたたましい女性だが、良いところもある。

あるとき、飼い猫ホッジが行方不明になった。アガサは大声で名前を呼びながら探し回る。ようやく猫を見つけて連れて帰り、やれやれとキッチンに入ると、そこにホッジがのんびりしていた。なんとホッジはずっとそこに居たのだ。猫の習性をよく知らないアガサの早とちりだった。

「二匹の猫」アガサはうめいた。二匹も飼えない。一匹だけでも悩みの種になっているのだ。〔中略〕(ホッジと間違えて拾ってきた野良猫を)庭園に戻してこようかと思った。しかし、それでは残酷だ。動物愛護協会に連れて行ったら、おそらく安楽死させられるだろう。ありふれたトラ猫なんてほしがる人がいるわけない。
(p.41)

結局、アガサは二匹とも自分で飼うことに決める。そして・・

アガサがベッドにはいったとき、猫達は彼女の両側に一匹ずつ丸くなった。心が慰められた。

アガサはこうして、次第に良い飼い主に成長していく。アガサの心のトゲも、次第に丸くなっていく。本の終わり頃では、アガサはホッジにすっかり信用されていた。ホッジの行動がそれを語っている。

この本を読む時、もしまだイギリスに行ったことが無ければ、ぜひ「コッツウォルズ (Cotswolds)」を画像検索して町並みをご覧になることをお勧めする(下↓の画像参照)。重厚な石造りの家と、牧歌的な田園風景が広がる、それは美しい地方だ。あの景色と、アガサという都会派女性が、いかに不釣り合いであるか、よく理解できると思う。(しかしアガサが住んでいるという村名は見つかりませんでした。架空の村?)

(2015.2.27.)

ビートン『アガサ・レーズンと猫泥棒』

ビートン『アガサ・レーズンと猫泥棒』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『アガサ・レーズンと猫泥棒』
英国ちいさな村の謎2

  • 著:M.C.ビートン M.C.Beaton
  • 訳:羽田詩津子訳 (はた しづこ)
  • 出版社:原書房 コージーブックス(文庫)
  • 発行:2012年
  • NDC:933(英文学)長編推理小説 イギリス
  • ISBN:9784562060108
  • 303ページ
  • 原書:”Agatha Raisin and the Vicious Vet” c1993
  • 登場ニャン物:ホッジ、ボズウェル、他
  • 登場動物:-

 

著者について

M.C.ビートン M.C.Beaton

1936年スコットランド、グラスゴー生まれ。書店員、ライター、秘書などの仕事を経験したのち結婚し、アメリカへ渡る。編集者である夫の勧めで筆を執り、マリオン・チェズニー名義でロマンス作家としてデビュー。以降、100冊以上のヒストリカル・ロマンスを執筆。85年にM.C.ビートン名義でスコットランドを舞台にしたミステリ「ヘイミッシュ・マグベス巡査」シリーズ(未訳)を発表。ロングシリーズとなり、BBCスコットランドによりテレビドラマ化され、高視聴率を記録した。息子の学校卒業を機にイギリスのコッツウォルズへ引っ越し、そこを舞台にした本シリーズを92年に発表。こちらも20巻以上続くロングシリーズとなり、2011年にラジオドラマ化されて人気を博している。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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アガサ・レーズン

↑コッツウォルズの風景

アガサ・レーズン

↑コッツウォルズの古い町並み

 

ビートン『アガサ・レーズンと猫泥棒』

7.3

猫度

7.0/10

面白さ

7.5/10

猫好きさんへお勧め度

7.5/10

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