大山淳子『猫弁と指輪物語』
「猫弁シリーズ3」。
百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。
あらすじ
ある女優が飼っていた猫が妊娠した。その猫は密室で、決して他の猫とは接触できない環境で、それは大事に室内飼育されていたのに。いったいどうして?どこから雄猫が侵入したの?もしや誰かの陰謀?
その密室妊娠事件を、百瀬に解決してほしいとの依頼。百瀬もマンションを訪れて内外を細かく観察したが、外から雄猫が忍び込めるとはとても思えない。
その頃、美人獣医師のまことは頭を抱え込んでいた。部屋にいるのはビルマニシキヘビ、体長は2メートル程度だがアルビノで全身が黄色。良い里親を見つけなければならない。さらに、まこと動物病院に猫をかかえた男が飛び込んできた。トラックで轢いてしまった、どうしようと慌てている。幸い猫は軽症だった。そしてその男は、おつむの方は弱そうだが、稀に見る美形だった。
感想
猫弁・百瀬太郎のかかえる案件。密室猫妊娠案件。黄色いビルマニシキヘビ案件。「お祭りでモンシロチョウの幼虫を買ったら、蛾になった」案件。「うちの猫がお隣のさわらの粕漬けを盗み食いしたところ、骨で口内が傷ついたため、お隣を訴えたい」案件。さらに、プライベートでの婚約者との結婚進展問題。(page 191-192)
そんなに色々かかえていたら、そりゃ忙しいでしょう。でも、見るからに儲からなさそうな案件ばかり。経営は大丈夫にゃの?
こまる度に、百瀬は上を見上げます。7歳の百瀬を捨てた母親の言葉を思い出して。
土手を歩いている途中で、母は足をとめて言った。
「いい?太郎。万事休すのときは上を見なさい。そうすると脳がうしろにかたよって、頭蓋骨と前頭葉の間にすきまができる。そのすきまから新しいアイデアが浮かぶのよ」
page 193
もうひとつのことも、百瀬は知っています。人が上を見上げるときは、涙をこらえているときだ、ということをも。
心が疲れている人に、とくにおすすめの一冊です。ミステリーですが、流血も殺人も犯罪も何もありません。
.
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
大山淳子(おおやま じゅんこ)
2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『猫弁と指輪物語』
「猫弁」シリーズ3
- 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
- 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
- 発行:2014年
- NDC:(日本文学)小説
- ISBN:9784062778534
- 324ページ
- 登場ニャン物:テヌー、ボコ、ルウルウ・ベベ、他
- 登場動物:ビルマニシキヘビ