大山淳子『猫弁と透明人間』

大山淳子『猫弁と透明人間』

「猫弁シリーズ2」。

百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。

あらすじ

百瀬の事務所に依頼メールが届いた。これがひどい悪文。悪文すぎて、何を言いたいのかよくわからない。しかも依頼人は「透明人間」と名乗っていて、本名も書いてない。

しかし多額の着手金は勝手に振り込まれていた。百瀬は依頼を引き受けることにした。その依頼とは、あるタイハクオウム(インドネシア原産の白いオウム)の様子を写真付きで報告することだった。

一方で。百瀬の婚約者・大福亜子は、幸せながらも、多少不安でもあった。百瀬と婚約はした。が、その後、まったく進展がない。同僚の寿春美に逐一報告し、アドバイスを受けている。

そして。ここはあるアパート。男は、下の公園にくる親子が気になっている。真夜中の二時という時間に、幼い女の子と母親が、公園でそっと遊んでいたりする。男はひきこもりで、もう何年も誰とも一言も口を聞いていない。が、この男も、実は天才的頭脳の持ち主なのだった。・・・

大山淳子『猫弁と透明人間』

感想

この作品に出てくる人間は、誰もが、ある面では抜群の才能を持ちながら、別の面では抜けているか能力不足で、しかも短所の方をより強く自覚しています。だから自分に自信が持てません。しかも根は優しい善人ばかりです。

そのような人たちが、動物たちをめぐっておこす事件というか騒動ですから、暖かさに満ちています。読み終わった後味は、凍てつく夜に熱いココアを飲んだときのようです。

百瀬の婚約者・亜子と、その後輩・春美のイメージが、一作目からちょっと変わったなと思いました。一作目では、亜子は結婚相談所トップ実績の優秀な社員で、何事もテキパキと片付け、どちらかというと怖いイメージ。対し、春美はそんな亜子にすっかり頼っている、甘えん坊さん。しかしこの2作目では、亜子は実はとんでもなくウブな女性で、春美のほうがしっかり者。立場が逆転した感じです。

一方で、百瀬のお人よしぶりはさらに輪がかかってきました。どこまで優しい人なんだろう!でありながら、前作よりテキパキと動いている感もあります。こういう男こそ、本当の意味で頼りがいのある男なのかもしれません。

前作で話題になった「世田谷猫屋敷事件」の内容を知る事ができたのもよかったです。気になっていたんですよね。前作では、高齢女性と多数の猫たちが関わっているらしい、くらいしか分かりませんでしたので。みごとなハッピーエンドでした。

この「世田谷猫屋敷事件」について、こんな文章があります。

中でも(百瀬の)一番の実績は、世田谷猫屋敷事件だ。しかしそれをウェルカム(百瀬が以前所属していた大手弁護士事務所)の奴らは自覚していない。阿呆な事務所だと沢村は思う。最大手だろうが、阿呆は阿呆だ。
あそこにひとり天才がいた。沢村は事件に関する記事を集め、彼が何をどう処理したかを分析した。百瀬太郎。あれはただのおひとよしではない。
じぇれみ・ベンサムの最大多数の最大幸福の原理に基づき、損益分岐点を緻密に探り、現実に叶えうる最高の結論に照準を定め、最高の弁論とし、成果を上げた。
事務所の収益にはプラスにならなかったが、法が人にできるある可能性を実証したのは確かだ。 あと十年もすれば、あの事件が法改正の布告になったと、称賛されることだろう。
page 200-201

現実社会において、多頭飼育崩壊やそれに類する猫問題は、あちこちで起こっています。猫虐待事件も絶えません。猫保護団体や猫ボランティアは、ときには100頭を超える猫たちを抱え込むことになり、苦労が絶えません(→多頭飼育崩壊事例)。さらに、「動物の愛護及び管理に関する法律」=動物愛護法もとんでもないザル法で、効力はほぼゼロです。だって、例えば1000頭の犬たちを悲惨な環境に放置してレイプし、さらに獣医師でもない人物が無麻酔で帝王切開手術を行った販売業者に対する求刑が「懲役1年、罰金10万円」なんて世の中ですよ?(注:2021年長野県松本市のペット繁殖場「アニマル桃太郎」事件)。もの言えぬ動物たちのために、真摯に、的確に、正しく弁論してくれる人間が必要なんです。

あの事件を百瀬太郎が動物たちの側に立って弁論してくれたら、どんな裁判に展開するんだろう?彼の頭脳が、今の日本には必要です。動物たちのために、必要です。現実の百瀬太郎よ、現れてくれ~!現れて、動物たちのために戦ってくれ~!

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まとめ:大山淳子「猫弁」シリーズ

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

大山淳子(おおやま じゅんこ)

2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫弁と透明人間』

「猫弁」シリーズ2

  • 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
  • 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
  • 発行:2013年
  • NDC:(日本文学)小説 
  • ISBN:9784062774703
  • 343ページ
  • 登場ニャン物:テヌー(ボロ)、モーツアルト、タマオ
  • 登場動物:タイハクオウム
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