藤田宜永『左腕の猫』
猫に絡んだ短篇ばかり。
いずれも、熟年~初老の男が主人公で、そこに女がからんでくる。そして猫が通り過ぎる。猫は主格ではないが、どの作品でもピリリと効いたアクセントとなっている。そして、どの作品でも、人より猫の方がずっと悟っている。猫に勇気づけられたり、猫をうらやんだり、猫に嫉妬したり。猫の方は悠然と生きているだけだ。
「老猫の冬」
還暦を少しすぎた男の一人住まい。亡くなった妻の思いがけぬ秘密。飄々と生きる老猫モウ。
人間達よりモウの方が哲学を持っているように見える・・・。
「永遠の猫」
男は今まで信じていたものを突然失った。世の中が違って見えてくる。
そんな中、猫だけは、何に飽きることもなく、変わることもなく、平然と寝そべっているように見えたが。
「蛮勇の猫」
この短編集の中では一番ドラマティックなストーリー。
思いがけず第一級の身体障害者となってしまった男が、元ボス猫ジョージの勇気ある行動に勇気づけられ、人生の転機を迎える。
「葬式の猫」
男の妻の母が亡くなった。妻と実母の間には他人には踏み込めぬ溝があった。老母が可愛がっていた猫。死体に噛みついた猫。猫と夫婦の行方は?
「猫の幕引き」
長い人生では何回か、それまでの生き方に幕を引き、新しい道を歩むべき時が訪れる。しかし男にとってそれは、簡単な決断ではない。某A元首相だって、あんな幕引きだったし(汗)
それに引き替え、猫の身の引き方は立派だ。
「左腕の猫」
男はなぜかその女に惹かれた。女は猫を飼っていた。男よりあきらかに、猫のほうが扱いが上だった。
男は社長業に疲れ始めていたのだろうか・・・?
(2007.10.28.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『左腕の猫』
- 著:藤田宜永(ふじた よしなが)
- 出版社:文春文庫
- 発行:2007年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784167606077
- 313ページ
- 登場ニャン物:モウ(「老猫の冬」)、ボン(「永遠の猫」)、ジョージ(「蛮勇の猫」)、ミッチー(「葬式の猫」)、クマ(「猫の幕引き」)、キョロ(「左腕の猫」)
- 登場動物:-