バーンフォード『三匹荒野を行く』

猫と犬達が、400kmの大冒険。
カナダのハンター家には3頭の動物達がいた。
タオは、エリザベスの愛猫。しなやかで美しいシャムネコで、狩りが得意。
ボジャーは、ピーターが物心つく前から一緒に育ったイングリッシュ・ブルテリアの老犬。目も足腰もすっかり弱って、トボトボとしか歩けない。
そして、ラブラドル・レトリーバーのルアス。レトリーブ犬(人間が撃ち落とした水鳥等をとってくる猟犬)として、徹底的な訓練を受けていた。獲物を自ら襲うことがないのはもちろん、口にくわえてはこぶときも、かすり傷ひとつ負わせない。ご主人様のジム・ハンター教授には、絶対的な忠誠を誓っている。
さて、ハンター一家は仕事の関係で、9か月の長期間、イギリスに行かなければならなくなった。その間、動物達は友人のロングリッジ氏に預けられた。
ところが、ほんのわずかなスキに、動物達は脱走してしまう。
3頭が目指したのは、懐かしい我が家だった。その距離、なんと250マイル(400km)。
道中にほとんど人家はない。ほぼ全行程が、人跡未踏の大森林帯である。クマやオオカミやオオヤマネコが跋扈している。川もあれば山もある。しかも、季節はカナダの短い秋、すぐに冬がやってくる。
まだ若いラブラドル犬はともかく、ビロードのように短毛のシャムネコや、老いて片目の老ブルテリアに、カナダの荒野を踏破できるのだろうか・・・!?
私はこの本は、動物文学史上、最高傑作の一つだと思っている。動物達の描写がすばらしい。カナダの大自然がすばらしい。素朴な人々がすばらしい。動物達を家族として思いやる心がすばらしい。
そして、もちろん、大冒険に乗り出す猫と犬たちが最高にすばらしい!
この本を私が初めて読んだのは、たしか小学校5年生のとき、学校の図書館だった。当時はネット書店なんてなかったから、駅前の本屋に小学生のお小遣いで買える金額で置いてなければ、図書館で借りるしかなかった。何回借りなおしたかわからない。
今回、何十年ぶりかにペーパーバックで読みかえしたら、すべての場面を覚えていて、我ながら驚いた。若い頭の記憶力のすごさよ。最近読んだ本は、読んだかどうかさえ忘れるというのに(汗)。
そして、すべて覚えているにも関わらず、また感動してしまった。ラストも覚えすぎていて、クライマックスにさしかかるずっと前から涙があふれて止まらない。都会育ちの小学生のころより、田舎暮らしの大人となった今の方が、原生林を踏破する困難さが、もっとよく理解できる。動物が、ときには種を越えて、困難に協力して立ち向かうことがあることも、実際に見て知っている。子供時代とは視点も経験値も違ってきているのである。何回読んでも名作は新たな感動を呼ぶ。
こんなに面白いのに、なぜか、今は日本語では入手しにくくなっているようだ。「ウィキペディア」によると、翻訳は3冊。
『三びき荒野を行く』 山本まつよ訳 あかね書房 国際児童文学全集10 1965年
『三匹荒野を行く』 辺見栄訳 集英社 世界の動物名作1 1972年
『信じられぬ旅』 藤原英司訳 集英社 コンパクト・ブックス 1965年 のち集英社文庫で刊行
最新でも1972年と、やや古い訳ばかり。もったいない!羽田詩津子さん(と指名しちゃう)、新しい訳でぜひ出してください。
映画化もされている。
1963年、ウォルト・ディズニーによる実写映画 「三匹荒野を行く(The Incredible Journey)」
動物達はしゃべらずナレーションだけ、演技も自然な最高傑作。
1993年、リメーク 「奇跡の旅 (Homeward Bound:The Incredible Journey)」
動物たちがアテレコでしゃべる現代風。
*ペーパーバック版は動物好きで英語を勉強中の方にもおすすめです。難しい単語や構文は出てこないし、変なスラングとかは皆無だし、ストーリーは面白いし、きっと楽しめるでしょう。
(2015.4.2.)

バーンフォード『三匹荒野を行く』

バーンフォード『三匹荒野を行く』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『三匹荒野を行く』
- 著:シーラ・バーンフォード Sheila Burnford
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:9780440413240(ペーパーバック)
- 148ページ
- 原書:”The Incredible Journey” c1960
- 登場ニャン物:タオ(Tao。シャムネコ)
- 登場動物:ボジャー(血統署名Ch.Boroughcastle Brigadier of Doune。イングリッシュ・ブルテリア)、ルアス(Luath。ラブラドル・レトリーバー)、クマ、オオヤマネコ、ヤマアラシ、他。