映画『三匹荒野を行く』

動物映画界の不朽の名作。
ハンター家には、愛らしい家族がいた。
ハンター氏の忠犬、ラブラドル・レトリーバーのルーア。優秀な猟犬である。
女の子の愛猫、シャムネコのテーオ。猫らしい気品と気高さにあふれている。
男の子の相棒、ブルテリアのボジャー。生まれてた時から一緒に育った同い年同士だ。
ハンター氏は、とても魅力的な仕事のオファーを受けた。
今後の彼のキャリアを考えても、ぜひ受けたいオファーだった。
けれどもそれは、しばらく家族は、その土地を離れなければならないということをも意味した。
3匹を連れてはいけなかった。
幸い、友人のロングリッジさんが3匹を預かってくれた。
彼は一人、自然豊かな土地の広い家に住んでいた。
3匹にとっても理想的な環境だったはずなのに。
ロングリッジさんがしばらく家を空けることになり、家政婦に3匹のことをくれぐれもと頼んだのだが、偶然や行き違いが重なって、3匹は行方不明に。
はるか離れた我が家へと、旅立ってしまったのである。
3匹だけで。
カナダの手つかずの大自然。
深い森は昼でも薄暗く、ところどころ急流が流れる。
グリズリーや、アメリカクロクマ、オオカミ、オオヤマネコなどの肉食獣のほか、ヤマアラシやヘビなど、ペットたちにとっては危険な動物が多数生息。
懐かしい我が家は、はるか320キロメートルも先。
途中には雪をかぶった山脈もある。
はたして3匹は、無事にたどり着けるのか?

映画『三匹荒野を行く』
*****
ディズニーは多くの動物映画を製作していますが、私はこの作品は、最高傑作のひとつだと思います。
私の中では間違いなくナンバーワンです。
何かも見ていますが、見るたびに、ほんとうに感心してしまいます。
どうやって、撮ったのだろう!
犬たちはともかく、どうすればシャムネコに、こんな演技をさせられるのか!?
シャムらしく、ちょっと内斜視のテーオちゃん。
犬たちとみるからに仲が良く、一緒にてくてく歩いているだけでも愛らしいのに。
川の中から魚を救い上げたり。
石を上手に飛び移って川を渡ったり。
クマやリンクスと戦ったり。
草原を一直線に走って来たり。
人間顔向けの演技力です。
ただもう、感心するしかありません。
ブルテリア・ボジャーの演技もなかなかです。
本当はまだ3歳の、若い犬だそうです。
喜んで走るシーンなどは、その若さが出てしまっています。
けれど、全体的には、「足の悪い老犬」を見事に演じきっています。
ブルテリアならではの、すっとぼけたような表情が、なんとも愛敬があり、実に愛らしい犬です。
ラブラドル・レトリーバーのルーアは、ちょっと損しているかもしれません。
この子も立派に演技していますし、もしこの子だけなら、名俳優とたたえられたでしょう。
けれど、一緒にいるのが、老犬の演技をしている若ブルテリアと、それから、猫!
同じ演技をしても、猫はほめたたえられるのに、ラブラドルならやるだろうと思われちゃいますからね。

置いてきぼりにされたと勘違いし、しょんぼりする3頭。
他の動物たちも芸達者です。
子熊のきょうだいは愛らしいだけですが、お母さんクマの演技はなかなかなもの。
オオヤマネコも迫力満点。
それから、登場人物もいいですね。
とびきりな美人やイケメンはいません。
ふつうのおじさんたち、素朴な老人、いかにも善良そうな小太りの奥さん、etc.
動物映画として見た場合、私にいわせればこの映画、なにひとつ欠点はありません。
すべての点においてすばらしいです。
もちろん、児童文学の映画化ではあり、いわゆるファミリー映画です。子供向けといわれるようなジャンルです。
けれども、そんじょそこらの「おこちゃま映画」とはレベルが違う。
そもそも、原作通りの動物たちに、原作通りの演技をさせるなんて、それだけで、どれほどの時間と訓練と信頼関係が必要だったか!
今の時代には、こんな映画、もう作れないだろうなあと思わせる内容です。
今の映画界は、動物たちを訓練するより、画像を加工する方が速くて確実で「迫力がでる=動員数が増える」と信じ込んでいる人ばかりなんですから。
古い撮影法だからこそ、ますます価値のある映画だと思います。

ときには、人間から隠れる必要も。

映画『三匹荒野を行く』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
映画『三匹荒野を行く』
- ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
- キャスト:ボジャー(ブルテリア犬)、テーオ(シャム猫)、ルーア(ラブラドルレトリーバー犬)
- 出演:エミール・ジェネスト、サンドラ・スコット、ジョン・ドレイニー
- 特別出演:レックス・アレン
- 脚本:ジェームズ・アルガー
- 監督:フレッチャー・マークル
- 80分 カラー 1963年製作
- 原題:”The Incredible Journey”
- 原作:Sheila Burnford “The Incredible Journey”
- 登場ニャン物:テーオ(シャムネコ)
- 登場動物:ルーア(ラブラドル・レトリーバー)、ボジャー(ブルテリア)、その他野生動物たち