萩原朔太郎『猫町』『ウォーソン婦人の黒猫』

猫が支配する、不思議な町。
日本を代表する詩人・萩原朔太郎が生涯に残した小説は、わずか短編4編だけだったが、そのうち2編の題名に「猫」が付いている。
さらに、朔太郎詩集の最高傑作の題名も「青猫」である。
よほど猫に思い入れのある人だったのだろうか。
作品から見る限り、猫を猫かわいがりするというタイプではなく、猫の神秘性を強調し、人類の横に潜んでいる超存在的な存在として扱っている。
猫の能力に強い憧憬を抱いていたようにも感じられる。
「猫町」は、詩人らしい幻覚的な短編だ。
見慣れた普通の町が、ふとした拍子に、突然見知らぬ町に変貌する。
精神状態のせいだったり、時には麻薬を使っていたり、単にいつもと眺める方向が逆なだけだったり。
あまりに鋭敏すぎる詩人の感性のなせるわざだ。
そして、詩人は不思議な話を聞く。
ある町は、犬のように肉ばかり食べる人々があつまった犬町で、ある町は猫のように魚ばかり食べる猫町なのだ、と。
そして、それを聞いた詩人はある日、本当に猫だらけの町に迷い込んでしまう。
「ウォーソン婦人の黒猫」は、ポーの「黒猫」を彷彿とさせるような、不気味で狂気じみた短編である。
夫を失い、しかし教養ある婦人らしく質素で堅実な生活を送っていたウォーソン婦人の部屋に、ある日突然黒猫が現れる。
黒猫は婦人の狂気の具象化だ・・・
(2002.4.10)

萩原朔太郎『猫町』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫町』『ウォーソン婦人の黒猫』
「猫町 他十七篇」収録
- 著:萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)
- 出版社:岩波文庫
- 発行:1995年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4003106237 9784003106235
- 163ページ
- 登場ニャン物:(猫達)/(黒猫)
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- I
- 猫町
- ウォーソン夫人の黒猫
- 日清戦争異聞(原田重吉の夢)
- II
- 田舎の時計
- 墓
- 郵便局
- ほか
- III
- 秋と散歩
- 老年と人生
- 解説(清岡卓行)