ハインライン『夏への扉』

誰に裏切られても、猫だけは裏切らない。
SFの大家、ハインラインの傑作のひとつ。
1970年のアメリカ。
ダンは若い優秀なエンジニアだった。
軍を退職後、仲間と小さな会社を設立した。
最初に作った製品は「ハイヤード・ガール」。
早く言えば掃除機なのだが、その際だった特徴は、人の手を全く煩わさないということだった。
つまりすべて自動操縦で勝手に掃除してくれるのである。
この掃除機はヒットした。ダン達の会社はみるみる成長した。
ダンは1頭の猫と暮らしていた。
猫の名前はピート。
ダンの家には、外に通じる扉が11個と、ピート用のキャットドアーが1つ、合計12の扉が付いていた。
ピートは外が好きだった。が、雪は苦手だった。
ひとつの扉から外を見て雪だと知ると、ピートは必ず次の扉を開けろと言う。
さらに次の扉も。
こうして12の扉をひとつひとつ開けては確かめ、開けては確かめる。
どこかに夏へ通じる扉があると信じているかのように。
会社は順調、愛する婚約者もいる、何もかも快調だったはずのダンの生活が、ある日一変する。
信じていた人達に裏切られたのだ。
ダンは「冷凍睡眠」で西暦2000年まで眠ることを決意する。
もちろん、猫のピートと一緒に。
ところが裏切り者は、ダンをピート無しで冷凍睡眠へと追いやってしまう。
ダンが目覚めた西暦2000年とは、どんな世界だったのか?
猫のピートとまた会えるのか?
ダンが、愛猫を想う気持ちに、胸が切なくなる・・・
この本は傑作といわれるだけあると思う。
エンジニアリングに冷凍睡眠、タイムトラベル、恋愛や泥臭い人間関係など、老弱男女読む者を選ばないし、飽きさせない。
また、この小説が実際に発表されたのは1957年だが、小説の中の設定は西暦1970年と2000年とされている。
我々はすでに2006年の時代を生きている。
昔の人が、2000年の時代をどう夢見ていたかという観点から読んでも面白い。
拙サイトのような猫サイトは女性の訪問客の方が多いだろうし、女性の観点からみてみると・・・
小説の中の西暦2000年は、少なくとも女性にとっては、現実の西暦2000年より遙かにすばらしい世界になっている!
家事はすべて機械がやってくれる。今あるような、最新型掃除機だの洗濯機だのと威張っても結局は全部人間がひとつひとつ動かさなければならない受動的な機械ではなく、一度セットすれば何でも完璧にこなしてくれる自動ロボットになっているのである。
洗濯機は、洗濯するだけでなく、干し、取り込み、たたみ、しまってくれる。
食器洗い機ももちろん、まずテーブルの上の汚れた皿の片付けからはじめて、洗い、乾かし、戸棚にしまう。
家事が機械化されて主婦は楽になっただろうなんてよく言われるけれど、今の家電なんて、ごく一部を代行してくれるだけではないか。
ハインラインが描いたような家電こそ、本当の家事代行家電といえるのであって、この本を読んでしまったら今の家電なんてオモチャにしか思えない。
その上、不老技術も発達していて、ちゃんとケアした女性なら何歳になってもみずみずしく若くいられるのだ。
女性なら必ず「ハインラインっていい人ね」と思ってしまうだろう。
実世界は武器ばっかり発達して、ハインラインの考えた方向に世の中が進まなかった事が非常に残念だ。
なお、私が持っているのはなぜか、講談社出版の日本語ルビ付き英語版。一時期和訳で入手困難だったとき、たまたまこの本が店頭にあったのを見つけて購入したのだった。
英語に慣れるのに、こういう日本語ルビ付き英語本はかなり役に立つのではないかと思うのだが、不思議なことに、あまり出版されていないようですね。
その数少ないラインアップの中に、この「夏への扉」があったことには感謝。
その後はまたハヤカワ文庫で手軽に入手できるようになっているようだ。
(2006.8.14)

ハインライン『夏への扉』

少しでも難しい表現には和訳がついている。これなら長文の英語に読み慣れていない人でも楽に読める。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『夏への扉』
- 著:ロバート.A.ハインライン Robert A. Heinlein
- 出版社:講談社インターナショナル株式会社
- 発行:2000年
- NDC:933(英文学)アメリカ長編SF小説
- ISBN:4770026609 (早川文庫版=9784150117429)
- 247ページ
- 原書:”The Door into Summer” c1957
- 登場ニャン物:ピート= Pete(ペトロニウス=Petronius the Arbiter)
- 登場動物: -
【角川文庫版】