畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

 

猫を含む、動物と仲良くなるコツが満載。

ムツゴロウさんこと畑氏はやはりすごい人だと素直に感心してしまった。

畑氏のやり方を批判した書評を書いたこともあるけれど、(『猫ふえちゃった』)、氏の動物取り扱い法については、昔から感嘆している。
この本を読んでますます感心した。
すごい人としか言いようがない。

畑氏は、あのひょこっとした外見からは想像もつかないほど肝の据わったお方だ。
動物と対峙するときは常に命がけである。
なにしろ、氏が相手にするのは可愛い猫ちゃんばかりではない(猫も相手にはするけど)。
巨大な人噛み犬や、ほとんど人慣れしていないヒョウ、野生のゾウや、クマの群れだったりする。
とても普通の人間が近づいて五体満足で帰れるような相手とは思えない。

ところが氏はいとも容易く近づき、さわり、仲良くなってしまう。ほとんど神業だ。

しかし、その神業にはちゃんと裏付けがあった。

畑氏の類い希なる観察眼と、豊富な知識と経験、咬まれても引っかかれても逃げない剛胆さ、それから、何よりも大切な、「動物に触りたい、仲良くなりたい」という気持ち。

とにかく氏は、動物を見るたびに、まるで子供のように、ただもう触りたくなる。
仲良くしたくなる。
動物とふれあうことに至上の喜びを感じている。
なにをされても舐められても、汚いだの気持ち悪いだのは微塵もない。
ひたすら喜んでいる。

「いい子だね。いいよ。やあ、いいなあ。きみって、きれいだよ。」
「ようし、よしよし、いい子だね。」
「好きだよ。好きだよ。」

その素直な喜びを動物は敏感に感じ取って、動物も素直になついてしまう。

本の中で、氏は、このように近づけとか、ここを触れとか、また一番大切なのはリラックスすることだとか、色々と述べている。
しかし、それらのテクニックの前になんといっても、
「動物と仲良くなりたい」
その気持ちが大切なんじゃないかと、この本を読んで思った。

目の前の子が愛しくてたまらない。
かわいくてかわいくて、大好きで大好きで、本当に仲良くなりたい。
殺されてもいいから仲良くなりたい。

純粋にそう思える人、子供のように、否、子供よりもっと無邪気にそう思える人、それが畑氏ではないだろうか。

畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

猫(イエネコ)についてはあまり書かれていない。数カ所にほんの数行くらいずつと、短い章がふたつ、そのうちひとつは猫といってももっぱら大型ネコ科とのことである。

ところがその中に、はたと思いつくものがいくつかあった。

人が介入せず、自然の中で活きているとしたら、猫は四年から五年で消えていく運命にある動物だろうと私は考えている。だから、五年以上生きたものには、家畜化の影響がより濃く表れるのである。
page177

私は子供の頃から動物好きで子猫を拾っては里親探しなどしていたが、親が動物嫌いだったためと、自立してからはペット禁の賃貸住宅が長かったため、生涯自分の猫としの責任をもって死ぬまで一緒に暮らすのは、今いる子達が初めてである。
それまでは特定の子と何年も一緒に暮らしたことはなかった。

うちの猫たち、どの子も甘えん坊だけど、五歳を超えたくらいから、ますます甘えん坊になった。
これはちょっと意外だった。
愛情表現が細かくなった。
ときにはかなりしつこく、うるさいくらいだ。

猫という動物は、歳を取ったら自立して離れる動物ではなかったのである。
歳を取れば取るほど、人に甘え人に頼り、人と一緒に生きて生きたがる動物だったのである。

それから、もう一カ所。

猫の名を呼ぶと、しっぽの先を振って返事をすることがよくある。
飼育書などを読んでいると、これは猫の消極的な返事・・・ニャアと鳴いたりまして駆け寄ったりするほどではなくて、「聞こえていますよ」程度の反応・・・と書いてあったりする。
ある有名な動物学者の本にもそう書いてあって、そうなのかなと思いつつも、何か釈然としないものが私の中にあった。

というのも、しっぽを振って返事をした猫なら、なでたり抱いたりしても怒らないし、むしろ喜んでくれる場合が多いからだ。
本当に消極的な気分なら、猫のことだ、「触るにゃ!」と怒るだろうと思うのだが。
そして、しっぽを振ってお返事したあと、猫を構わずにそのまま放置すると、猫の方が「あれ?」って感じに頭を上げて周囲を見回したりする。
「なでてくれニャイの?」みたいに見える。

この疑問に畑氏は明確な答えを出してくれた。

これは、呼びかけにはっきり反応している証拠である。しかもそれは、『ハイハイ、ここにいますよ』という犬の消極的な返答ではなく、遊び心が目覚めた証拠でもあり、『やあ、こいよ。遊んでやるぜ!』とでも言った方がいい、積極的な反応である。
page178

そうですよね。
あれは「しぶしぶのお返事」ではなくて、もっと積極的な反応ですよね。

この本には動物とつきあう基本(気持ちの持ち様)が多く書かれてあって、とても勉強になると思う。
今動物と一緒に暮らしている人は是非読んでください。
とくに犬と暮らしている人に有益だと思うが、猫でももちろん勉強になる。
動物とふれあう機会の無い人にはよく理解できないかもしれないけれど。

(2006.4.17)

畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

畑正憲『ムツゴロウの動物交際術』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ムツゴロウの動物交際術』

  • 著:畑正憲(はた まさのり)
  • 出版社:文春文庫
  • 発行:2003年
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:416710833X 9784167108335
  • 305ページ
  • 登場ニャン物:イエネコ数頭、ユキヒョウ、ほか
  • 登場動物:犬、ゾウ、クマ、チンパンジー、オオカミ、ほか多種

 


ショッピングカート

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA