半藤一利『其角俳句と江戸の春』

ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉。
宝井其角、または、母方の姓をとって、榎本其角は、生粋の江戸っ子。生まれは寛文元年(1661年)。十代半ばから松尾芭蕉に師事し、蕉門十哲の筆頭の俳人とまでいわれた。
が、その俳風は、わび・さびの師・芭蕉とはかなり違う。
江戸っ子は、はなやかな伊達を好み、鬼面人を驚かす巧みな技をもち、たった十七文字のなかにそれを見事に滑りこませる。さらには雑学に富み、伝統の和歌といわず、漢詩といわず、漢籍といわず、下世話な物語といわず、謡曲狂言といわず、古典文学といわず、手当たり次第に自家薬籠中のものとして句に織りこんでいる。結果として、晦渋そのものの句、理解とうてい不可能の句がどっさり、ということになるのである。
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そのため、
ともかく難解すぎて、このごろは其角俳句がほとんど忘れ去られていく。
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のだそうだ。
思わず尻込みしてしまいそうな前書きだが、何も心配はいらない。その難解な句を、著者の半藤氏がひとつひとつ丁寧に解読・解説してくれているから。そしてその説明を読めば、「ほほぅ!」と感心すること間違いないのだから。
これだけ読み解く半藤氏もすごいってことですけれどね。
それにしても、江戸時代の「遊び」の高尚なことよ。最近の、薄っぺらで、バカバカしくて、表も裏も何もない「お笑○芸人」たちのドタバタとは、なんという違いか。時代が進んでも、科学が発達しても、人間は賢くならないどころか、かえって堕落していくようで、情けないことこの上ない。
ところで私にとって誤算的収穫(笑)だったのは、猫をよみこんだ句がいくつかあったこと。これは楽しかったにゃあ!
この本を片手に、句に笑い解説に頷きながら、江戸時代の知的遊戯をたっぷり味わってください。
ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉
子猫たちがじゃれあって遊んでいる、そこへ蝶々がひらひら、 ますます子猫が遊んで、ああ、のどかな春の日よ。
*この本に出てくる其角の猫俳句はこちら。
→文献でよまれた猫たち>其角

半藤一利『其角俳句と江戸の春』裏表紙

半藤一利『其角俳句と江戸の春』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『其角俳句と江戸の春』
- 著:半藤一利(はんどう かずとし)
- 出版社:平凡社
- 発行:2006年
- NDC:911(日本文学)詩歌・俳句
- ISBN:9784582833454
- 191ページ
- 登場ニャン物: -
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- 前口上
- 春夏秋冬の章
- 睦月・如月・弥生
- 卯月・皐月・水無月
- その他
- 其角ばなしの章
- 赤穂浪士の面々と
- 「田をみめぐり」の向島
- その他
- 後口上
- 索引
- 参考文献