徳大寺有恒『眼が見えない猫のきもち』
元ノラで盲目でエイズキャリアの茶白猫。
なんともほんわりさせられる本です。
「元来、わたしは猫が嫌いであった。」
「それで、もともと猫を飼う気などなかったのだが」、
妻の友人が盲目の猫を拾ったと聞いて、なぜか
ふと、その猫、うちで飼おうかと思ったのである。
なんで、そんな風に思ったか、はっきりしない。
この本を読んで、なぜ「そんな風に思ったか」私には分かった。
もちろん、チャオちゃんが徳大寺さんを呼んだのである。
チャオちゃんと徳大寺さんは一緒に暮らす運命と、産まれる前から決まっていたのだろう。
猫と人との出会いの中には、そうとしか思えないような、運命的な出会いというものがしばしばあるのだから。
徳大寺さんは、チャオちゃんを見た瞬間から完全に心を奪われてしまっている。まさに一目惚れである。
そのチャオちゃんとは
いじけていて、臆病そうで、なにごとにも積極性を欠いていた。
毛並みは汚い上、目のまわりは、めやにでガビガビに固まっている
という、みすぼらしい子猫だったのだが。
次の日から、徳大寺夫婦の生活は何もかもチャオちゃん中心に回り出す。
徳大寺さんはクルマの評論家である。レーサーの経験もある。
が、チャオちゃんがクルマを嫌いと知れば「静かに、静かに」「時速三十キロから四十キロくらいの速度」で走る。
猫にタバコの煙が良くないと知れば、「チャオぴんの健康にはかえられない」と、喫煙時は書斎にひとり閉じこもって吸うことにする。
また、徳大寺さんは、仕事があるので留守が多い。
チャオちゃんは夫人の方になついてしまい、一日中夫人の「オッカケ」をして歩いている。
徳大寺さんはそれをほほえましく思いながらも、内心さびしくてたまらない。
で、こんな強がりをいってみたりもする。
つまり、チャオの可愛さというのは、人間であるわたしの、想像力が大切なのだ。この想像力というのは、ことによると、ただの思い入れかもしれないのだが、男の専有物だ。 男と女では、猫の愛し方が違う。猫という動物は、想像力が豊かでないと愛せない。その点、男向きだというのが、わたしの愛猫論というわけである。
論の正否は別として、徳大寺さんの猫馬鹿ぶりが、なんともほほえましい。
さらに徳大寺さんは、こんなことも書いている。
もしもだが、そんなことはあり得ないが、すごい金持ちになったら、世の中の捨て猫、捨て犬を、可能な限り飼ってやりたい。なんだか太公望のようだが、ノラをどんどん買って、楽園をつくったら、どんなに楽しいだろう。
また、こんなことも。
CHAO二世をどうするか。
やはり眼が悪い猫にしよう。チャオになにかあって、新しい猫を飼うことになっても、眼が悪いことが条件だと、そう二人で決めた。
すごくすてきな本です。
私はいっぺんで徳大寺さんの大ファンになっちゃいました。
(2006.5.5)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『眼が見えない猫のきもち』
- 著:徳大寺有恒(とくだいじ ありつね)
- 出版社:平凡社
- 発行:2005年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4582832776 9784582832778
- 189ページ
- 登場ニャン物:チャオ
- 登場動物: -
【推薦:なつ母様】
以前、こちらの掲示板で紹介されていた徳大寺有恒さんの本、昨日とどいたので早速読みました。
情景が目に浮かぶようです。実家にも猫がおりますが、齢70を超えようかどうしようかと迷っている?両親にとっていまやテツ(名前)はもはや子供以上の存在。
妹など「私が風邪を引いてもなんにもなのにテツが風をひこうものなら大変」と愚痴ります。
先日母が「なつ(猫の名前)が来てM(次男)が変わったのではなく回りが変わったんじゃないの?空気がやさしくなったんじゃ?」
っていいました。
もしかしてそのとおりなのかも知れません。
家になにか動物がいるというのはほんとに知らない間にやさしくなっているものなのかもしれませんね。
(2005.9.15)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。
【推薦:きな様】
猫嫌いを標榜する男性が、猫の魅力に目覚めるとデレデレのウニャウニャのコロリンコロリンになる(笑)という見本がまたひとつ。
「間違いだらけのクルマ選び」で自動車評論家として新たな視点を打ち立てた徳大寺さんの猫エッセイです。
頑固でコワモテで鳴らす徳大寺さんが、ひょんなことから猫と暮らす事になりました。
「実家のおかあさん」(猫の保護主さんのこと)から引きとった猫は、薄汚れた毛並み、目やにだらけの目は盲目で、その上猫エイズのキャリア。でも、その猫が徳さんご夫婦の暮らしにとってかけがえのない安らぎをもたらしてくれるのです。
眼が見えないというハンディを、それゆえのゆっくりしたテンポが 老境を迎えた夫婦には合うと受け入れ、聴覚だけで虫を追う様に目を細め(るだけでなく 夫婦して虫取りに精を出し)、それでも その眼がなんとか治らないものかと 島根県にある一畑薬師(眼のお薬師さまとして有名)まで願掛けにゆく。
眼の見えないチャオが不安を感じないように、夫婦ふたりで部屋を離れる時は必ずチャオに声を掛ける。
その細やかな心配りと、チャオを見つめる暖かい視線に、読んでいると心がほっこりしてきます。
連載中に脳梗塞で倒れた徳大寺さんですが、チャオに会いたい帰りたい一心でリハビリに励み、それが驚異の回復につながり、現在は元気にお仕事を続けていらっしゃるようです。よかったよかった。
鈴木成一氏による装丁・矢吹申彦氏による挿画もとても素敵な一冊。
口絵には荒木経惟によるふたりのポートレートがあり、チャオを抱く徳大寺さん・徳大寺さんに抱っこされたチャオちゃん、どちらもそれはそれは幸せそうです。
(2005.8.31)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。