佐々木裕之『エピジェネティクス入門』
副題:三毛猫の模様はどう決まるのか。
もし、猫の模様の解説書だと思われた方がおられたら、ご期待に沿えないでしょう。悪しからず。
(p.iv)
と、「はじめに」に断り書きされている通り、これは猫の模様の解説書ではない。「エピジェネティクスとは何か」を説明した科学書である。猫の模様については、4ページにも満たない小さな章があるだけだ。
なので、猫の本と思った方はここでUターンしてください。
遺伝学一般に興味のある方には、わかりやすくて面白い、なかなかお奨めな本だ。
さて、エピジェネティクスとは何か。
著者はその基本的な仕組みについて、こう説明している。
DNAの塩基配列には変化を与えないで、化学修飾というかたちで遺伝子に印をつけ、それをDNA複製と細胞分裂を経て次の細胞へ伝えていく・・・これがエピジェネティクスの仕組みの神髄です。
(p.32)
一つの種から芽を伸ばし、一本の木に成長して、沢山の花を咲かせている中に、なぜか花の色が違ったり模様が違ったりする木がある。
根がひとつなら遺伝子も同じはずなのに、なぜ?
また、クローン技術で誕生した世界最初の猫、CCちゃんの色模様が、親(というか、年の離れた双子ですね)とも、出産親とも、違っていたのはなぜ?
遺伝学の世界では、「獲得形質は遺伝しない」が最近までの常識だった。
獲得形質とは、生まれた後に獲得した特徴などのこと。一生懸命勉強した親から生まれた子供が、生まれながらにして九九が言えた、なんてことはあり得ない。
が、生物の不思議は計り知れない。
場合によっては、獲得形質が遺伝する場合もあるのだ。
どのような時に、どのような獲得形質が、どのようなしくみで遺伝するのか?
遺伝学の世界は、複雑怪奇、且つ、単純。
これほど単純なしくみがこれほど複雑に作用するとは、唖然とするばかりである。
(2009.2.10.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『エピジェネティクス入門 三毛猫の模様はどう決まるのか』
岩波科学ライブラリー
- 著:佐々木裕之(ささき ひろゆき)
- 出版社:岩波書店
- 発行:2005年
- NDC:467.2 遺伝学
- ISBN:9784000074414
- 92ページ
- 登場ニャン物: -
- 登場動物: -
目次(抜粋)
はじめに
1 個性はどこで決まるか
2 エピジェネティクスとは
3 さまざまな振舞い
4 個性は伝わるか
5 もっと複雑な仕組み
6 病気との深い関係
7 便利な道具にハマる生物
参考文献