はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』

小鉄がまだ「小鉄」になる前の放蕩猫だったころの話。
小鉄は野良の子か、捨て猫か。覚えている限り、生涯で最初の記憶は、段ボール箱の中で目覚めたことにはじまる。しかもその箱は、大きな河の上を流れていた。
段ボール箱だから、長くはもたない。初めてにしてはうまく泳げたという。そして、
この時 オレは 人生で一番 大切なことを 学んだ
ヤケクソと ゆうことだ
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はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』
こんな幼少時代から独りたくましく生き延びた小鉄。雄猫としての闘争にあけくれる毎日だった。「必殺タマつぶし」という技も習得した。怖いもの知らずとなった。
そんなある日。
小鉄は偶然、ある土地に流れ着く。そここそはウワサに聞く「三途の猫町」だった。

はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』
九州の閉山に なった炭鉱町に
いつからか 猫だけが 住みつき
猫町銀座と ゆう ユートピアを 造ったらしいたいそう栄えた そおだが
おいしい所には ハエもたかる大阪から流れてきたヤクザ猫の一群がそこに
トランプ・カブの賭場を開いた(中略)
あとは お決まりの 縄張り争い
この抗争が 一年も続くと
カタギの猫は 一匹もいなくなり
(後略)page33
九州猫たちと大阪猫たちは、文字通り血で血を争う抗争を繰り広げることになる。
そんな土地に小鉄が迷い込んだのだから、さあ大変!
* * * * *
ご存じ『じゃりン子チエ』のスピンオフマンガ。大人気猫・小鉄が主人公、登場するのも猫ばかり、チエちゃんはじめ人間は一人も出てきません。
と聞けば、いかにも猫好きにお勧めなマンガと思われるかもしれませんが、・・・
残念ながら、私にはこの作品を、心優しい猫愛好家の皆様にお勧めする気にはなれません。なぜならば、登場してくるのは全員猫の姿をしてはいますが、言葉を話し、二本足で歩き、道具を使い、まったく人間そのものだからです。しかも残酷です。人間並みに、ときには人間より残酷です。
猫が人間より残酷なんて、ありえないことです。

はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』
まあ、『じゃりン子チエ』の原作も、あまり優しいとは言えませんでした。怒鳴ったり殴ったりのシーンが多く、陰湿ないじめやあからさまな差別もあります。そもそもチエちゃん、「児童労働」で問題にされるべき状況におかれていましたしね。
そんな乱暴さ・ハチャメチャ度が、『どらン猫小鉄』ではさらにレベルアップしてしまいました。
ひとつ、私が救われると思うのは、「予・予告編」の最後の一コマです。
「月の輪の雷蔵」と呼ばれるほど強かった猫、やがてチエちゃんの飼い猫となり「小鉄」と呼ばれるようになりますが、小鉄自身が
オレはこの「小鉄」という名前が好きだ
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と言っていることです。
これは、「雷蔵」としてて自由を謳歌していた無敵な野良猫時代より、「小鉄」と名付けられチエちゃんの飼い猫となった今のほうが幸せだと感じているということではないでしょうか。
猫はやはり人間のと一緒に暮らすべきなんです。
このマンガ、ハードボイルドが好きな男性には面白いかもしれません。でも、繊細な女性や、猫を愛して止まない男性には、かなりキツイ内容となっています。もしお読みになる場合は、ハードボイルド漫画と覚悟してお読みください。

はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』

はるき悦巳『どらン猫(こ)小鉄』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『どらン猫小鉄』
- 著:はるき悦巳(はるき えつみ)
- 出版社:株式会社 双葉社 アクション・コミックス
- 発行:1984年
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:-
- 218ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:雷蔵(月の輪の雷蔵、小鉄)、カズヒサ、フトシ、オヤジ、勘公、モヒカン野郎、ほか多数
- 登場動物:-