平出隆『猫の客』
木山捷平文学賞受賞。
その猫、チビは、夫婦の飼い猫ではなかった。
夫婦はこの離れに引っ越したとき、子供はつくらないことと、ペットは飼わないことを約束していた。
チビは正式には隣の、男の子のいる家の飼い猫だった。
が、なぜか毎日夫婦の離れに遊びに来た。
チビは最初から夫婦の心をとらえていた。
そして、日が経つにつれ、どんどんかけがいのない存在へと昇格していく。
勾玉のかたちになってソファに眠りはじめたとき、家そのものがこの光景を夢に見ていると思われるような、深い喜びが来た。
(中略)
チビ以上の別嬪は、テレビを見てもカレンダーを覗いてもいないようであった。
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夫婦は家で仕事をしていた関係上、いつ猫が遊びに来ても、たいてい相手をできた。
夜更けまで机にむかって書き物をしているとき、チビは理想の相棒となった。
いつしか家の中にチビの寝床ができ、チビ専用の食器には、好の食べ物がいつも用意されるようになった。
大家のお婆さんも、決して猫嫌いというわけではなかった。
ただ病みがちな老夫婦には静かな環境が必要という思惑から子供やペットを禁止しただけだった。
チビのことは「この猫は別嬪さん」と特別扱いし、庭にはいることを許していた。
しかし外出自由猫には、その自由と引き替えに、悲しい出来事がいつかは襲ってくる。
優しくどこか切ない小説です。
ところどころ詩人ならではの美しい言い回しがあり、文学としても、また猫小説としても、じっくり味わえます。
チビという他家の飼い猫が、どれほど深く夫婦の心に入り込んできたか。
夫婦の優しさ、猫の愛らしさ、欅の大木の下に住む人間たちの生活。
秀逸です。
なお、私が持っているのは2001年発行の単行本ですが、最近文庫化されました。今なら文庫で店頭に並んでいると思いますから、ぜひどうぞ。
(2009.6.6.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫の客』
- 著:平出隆(ひらいで たかし)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:河出書房新社
- 発行:2001年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN : 4309014305(単行本)、9784309409641 (河出文庫)
- 137ページ
- 登場ニャン物:チビ、ドロ、ミケ、おねえちゃん、カッパちゃん
- 登場動物:-