伊集院静『ねむりねこ』

伊集院静『ねむりねこ』

猫エッセイ集ではありませんが・・・。

本のタイトルこそ『ねむりねこ』というエッセイ集ですが、猫は出てきません。

いえ、1か所だけ出てきます。
『十二月の猫』という、4ページの短いエッセイです。

著者は、「ふと見つけた路地」の中に入っていきます。「何度もこの界隈はうろついていたはずなのに、こんな路地があったことに気付かなかった。」そんな、小さな路地。

その路地には一軒の古いバーがありました。バーの「百年の航海を終えた船の底板であつらえたような赤茶けた木製のドア」の前に立っていたら、足元を黒い影が横切りました。

猫でした。毛艶の悪い、野良猫です。

そのふてぶてしい面構えを見て、著者はある絵を連想します。
ゴヤの初期の習作です。
横長の羽目板一枚に無造作に描き捨てられた、絵画と呼べるかどうかも怪しい絵。

猫の登場はたったこれだけです。

実はこの本、目次を見て『Ⅲ ねむりねこ』とまとめられているの見、不安をいだきつつも、とはいえひとつくらいは猫エッセイもおさめられているだろうと買っちゃったんです。
なのに、『Ⅲ ねむりねこ』は、下↓の目次をご覧いただければわかりますが、松井秀喜氏、武豊氏、山頭火、色川武大氏、黒岩重吾氏、熊谷守一氏に関するエッセイで構成されており、猫のねの字も出てきません。
どうしてこの章が『ねむりねこ』なのか、さっぱりわかりません。

まあ、エッセイ集としては面白かったから別にかまいませんが、・・・
とはいうものの、・・・これじゃあタイトル詐称じゃん!
いくら猫がブームだからって、虎の威を借るどころか、猫の威を借りるのもいいかげんにしてほしいなあ(汗)。
(注:エッセイ集としては、前記の通り、面白いんです!だからこそ残念)

(2012.5.19.)

伊集院静『ねむりねこ』

伊集院静『ねむりねこ』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

『ねむりねこ』

  • 著:伊集院静(いじゅういん しずか)
  • 出版社:講談社文庫
  • 発行:2008年9月
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784062752831
  • 302ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:-

目次(抜粋)

I どこへ行ったのやら
雨に光る花/野の花の強さ/夕陽とキャッチボール/どこへ行ったのやら/他

II 一瞬の夢
風を見る/えぐる/それぞれの春/美しき山河/他

III ねむりねこ
松井秀喜の軌跡/騎手の決め手 武豊/山頭火と火の国/色川武大の厄介/さようなら、黒岩重吾さん/ちいさきもの 熊谷守一

IV 我慢することだ
キンキの椅子/新二十歳へ/新社会人へ/好運・不運/十二月の猫/他

のほん ねむりねこ あとがき
憧れ続けている人へ 大友康平

著者について

伊集院静(いじゅういん しずか)

山口県生まれ。’81年短編小説「皐月」でデビュー。’91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、’92年『受け月』で第107回直木賞、’94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。著書に『白秋』『あづま橋』『海峡』『春雷』『岬へ』『ぼくのボールが君に届けば』『ツキコの月』『宙ぶらりん』『羊の目』『少年譜』『市が越みち』『お父やんとオジさん』『浅草のおんな』『いねむり先生』、エッセイ集『美の旅人』スペイン編・フランス編、『大人の流儀』などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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