映画『仔鹿物語』

映画『仔鹿物語』

ローリングスの名作『仔鹿物語』を忠実に映画化。

グレゴリー・ペック主演、1946年制作。もちろん、実写です。

あらすじ

フロリダ北部の大森林地帯の真ん中、ポツンと暮らす一家がいた。お父さんのペニー、お母さんのオリー、それから11歳のジョディ少年。食料も何もかも、自分達で調達しなければならない。一家は力を合わせて畑を耕し、ジャムも服も木柵もすべて自分達で手作り。ジョディのたった一人の友人は、馬で遠乗りの距離。少年は遊び相手が欲しかった。たとえば、アライグマの子とか。

だからある出来事から、子鹿を飼える事になって大喜び。少年は本当の弟のように子鹿を愛し、全力で世話をする。

映画『仔鹿物語』

けれども、自然は容赦なかった。野生動物達との戦い、嵐に洪水、お父さんの怪我。

そして、ある日、ジョディは最悪の選択を迫られる・・・

感想

世界中で愛されている小説『仔鹿物語』が、忠実に映画化されていて、小説と同じくらいの名作映画になっています。開拓時代のアメリカの大自然の中で暮らすことの厳しさ。日本の「ポツンと一軒家」の比ではありません。友達一人いない少年の孤独、子鹿を愛する純粋な気持ち、あまりに辛い最後。今見ても古さなんて感じられません。

まず、始まってすぐの、クマと犬達の抗争がすごいと思いました。1946年の映画ですから、多分これ、本当にやらせていますね。今では許されない撮影方法だと思います。私は当然、ただの娯楽映画のためにクマや犬を犠牲にすることには絶対反対です。ですからこういうシーンをCGで撮影できるようになった技術は大歓迎です。とはいえ、本当の犬とクマにはやはり魅了されてしまいます。

映画『仔鹿物語』

原作の父親・ペニーは、小さくて体も細い男でした。あまりに小さいので、本名ではなく「1ペニー硬貨のようにちっちゃい」から「ペニー」のあだ名で呼ばれていたほどでした。それに比べ、映画のペニーはあまりに格好良すぎです(笑)が、仕方ありませんね。なんせグレゴリー・ペックなのですから。言わずと知れたアメリカの大俳優、名作『ローマの休日』はじめ数々の映画に名を残しているお方です。そのグレゴリー・ペックが、誰もが憧れてしまうような父親をやっています。

同じく、原作に比べ、母親のオリ―は少々たおやかすぎ(汗)。原作の母親は、ペニーより巨大な体の持ち主なのに、農業は一切手伝わず、一日中怒っているだけの、冷たいイヤな女でした。でも映画の母親は農作業も手伝っています。原作が原作ですから不機嫌顔が多いのですけれど、やっと念願の井戸を掘れるかもしれないと聞かされたときは素直に喜び、たった一枚の新しい布に涙ぐむ姿は女性らしく、ジョディがたくましく成長していく姿に微笑むような良い母親として描かれています。この辺はやはりファミリー映画です。

親子揃って観てほしい映画だと思う一方、不安もあります。今の時代に生きる子ども達、はたしてどれだけ理解してくれるだろうか?なぜあのような結末を迎えなければならなかったのか、大人は納得できるような説明を子どもたちにできるのだろうか?

映画『仔鹿物語』

今年(2023年)、OSO18と名付けられたヒグマが撃たれ、けっこう大きなニュースとなりました。もちろん私だって無計画な駆除には絶対反対です。けれども、OSO18のようなヒグマに対して、単純に「可哀想」という理由だけで駆除するなとは言えない立場であることもわかっています。都会人は簡単に「奥山に放獣しろ」といいますが、そんな「奥山」、今の日本にどれだけ残っているでしょうか?放獣するなら、ヒグマの生息可能な地域でありながら現生息数が少なく新入りクマを受け入れる余裕がある、ということが大前提となりますが、それだけでなく、雄ヒグマの行動範囲は320平方キロメートルと言われていることを考えれば、放獣地点から半径10キロメートル以内に誰も住んでいないことが望ましく、もし住民がいる場合は事前に同意を得ている必要があるとか、ヒグマのように大きな動物を安全に眠らせ運搬する技術やコストの問題とか、さらに、捕獲地域と放獣地域の行政区分の問題とか(A市で捕獲した問題児クマを無断でB市に放獣すればB市が怒るに決まっています)、課題は山積みなんです。ヒグマの年間駆除数は数百頭単位、2021年は1026頭にもなったそうです(注)。つまり、ヒグマ達を救うには上記課題を解決した「奥山」を1026頭分も見つけなければならないということで、いくら私でも、さすがにそれが簡単にできる事ではないことはわかります。どれほど私が動物贔屓でも、殺されてほしくないと祈っていても、はらわたが煮えくり返るほど悔しく思っていても。残念ながら非力な私にできることは、細々と啓蒙の発信を続けることだけです。これだけは止めませんけれどね。武者小路実篤は100年後の理想郷を信じていたようですけれど、私はそこまで人類を信頼できませんので、せめて1000年後と願っています。もし1000年後に人類がまだ絶滅していなければ、あるいはもしかして、私が理想とするような人間が大多数を占める世に進化しているかもしれない、その「もしかして」を祈って、今もせっせと発信しているわけで(気の長い・・・)。

(注)環境省速報『クマ類の捕獲数(許可捕獲数)について [速報値]【都道府県(知事許可等)】【地方環境事務所等(大臣許可)】』(令和5年10月3日付)によれば、ヒグマの許可捕獲数は819頭。以前は捕獲されたヒグマのうち、わずかながらも4~6頭は放たれていましたが、平成24年度(2012年度)以降は、全頭捕殺となっています。

大幅に脱線してしまいました。

映画『仔鹿物語』

『仔鹿物語』は古い映画です。が、古いからこそ、より鮮明に、自然と動物たちと人間たちとの関係をあぶり出してくれてもいます。今の日本でこの作品がファミリー映画として作られたら、結末が書き換えられてしまいそうです。誰も死なず、全員ハッピーなお花畑なエンディングに。でも、それでは観る方の頭もお花畑のままで成長できません。「生きる」ということの厳しさ、今の日本の有難さ、そして、どうすれば動物たちともっと平和に共存できるかという大問題。大人も子供も老人も、改めて考えてほしいです。

なお、原作のレビューは↓

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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“THE YEARLING”

  • 出演:グレゴリー・ペック、ジェーン・ワイマン、クロード・ジャーマン・Jr、チル・ウイルス、クレム・ビヴァンス、マーガレット・ワイチャーリイ、ヘンリー・トラヴァース、フォレスト・タッカー、ジューン・ロックハート
  • 監督:クラレンス・ブラウン
  • 脚本:ポール・オズボーン
  • 制作:1946年 アメリカ
  • 時間:128分(本編)
  • コード:4961523230700
  • 原作:マージョリー・キーナン・ローリングス
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:フラッグ(シカ)、馬、クマ、犬、
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