常喜寝太郎『全部救ってやる』巻01・巻02

全部救ってやる。
それは現実問題、難しいんやろな
100%なんてないんやから
ただ、俺が出会った人みんなそんなことを考える前に
先に体が動いている人ばかりやった・・・ (カバー見開きより)

ストーリー
星野スズ。学校で虐めにあい、地元を離れようと上京した。目指すはカリスマ美容師。5年もの苦節の末、ヘアスタイリストに合格したが。
美容師の修行は過酷だった。効率最優先の競争世界。カリスマ美容師になるには、他人を蹴落とし、自分を売りまくること。
「客は仕上がり以上に”誰に切ってもらったか”を大切にする!!」
「集客してこそ成り立つ経営と人気であり、No.1への近道だ!!」
(ref:第一話 この世界を知らなさすぎた)
たしかに、その通りなんだろうけれど。とにかく、疲れる。スズは休暇をとって3年ぶりに実家を訪れてみた。
そんな時、偶然、多頭飼育崩壊現場に居合わす。そのおばあさんは、かつては猫たちを可愛がっていたのだろう。が、今は排泄物が積みあがってドロドロな環境。猫たちの健康状態も悪い。
そこに、排泄物の山をよじ登り、猫たちを保護して回る久我の姿があった。久我は個人で動物保護活動を行っていた。

「残りは全部俺がいく。1匹もここには残さない。」
(ref:第一話 この世界を知らなさすぎた)
スズは昔、猫を飼った経験はある。が、動物レスキューの現場は、まったく始めての体験だった。今まで想像もしたこともなかった悲惨さに、スズは驚く。それにもまして、私欲を捨てきった久我の姿勢に多大な影響を受ける。
感想
最近はこういうマンガが次々と出てきて、私としては嬉しい限りです。
ペットショップで売られる犬猫の末路。全員が死ぬまで愛され幸せになれるわけではありません。売られる子たちよりもっと悲惨なのが、その親たち。繁殖犬・繁殖猫の多くが、ただの「産む機械」扱いです。狭いケージに閉じ込められ、散歩もブラッシングもされず、ひどい場合はトイレ掃除もろくにしてもらえず。
また、動物を保護する側も、全員が全員、理想的な善人ではありません。最初は純粋に猫ファーストで動いていたはずの人でも、なぜか歯車が狂ってしまう人がいます。最初から詐欺目的の人間さえいます。

過去において、ペット業界は、良いイメージしか、消費者の前に出しませんでした。その点は畜産業界と同じです。乳牛を売る者は、例外なく、ひろーい牧場でのんびりと草をはむ幸せな牛をイメージに使います。一生スタンチョンという首輪に繋がれたまま、立つか座るかしかできない拘束状態で乳牛たちが飼われているなんて、決して口外しません。同じように、ブリーダーについても、良いイメージばかりが宣伝されてきました。ブリーダーこそ、本当にその動物を愛している動物のプロだ、なんてね。
けれども気づく人は何十年も前から気づいていました。親たちはちゃんとお世話されているの?売れ残った犬猫はどうなるの?ペットオークションって?野良犬・捨て猫がこんなに多いのはなぜ?近所に繋がれたままの犬がいるけど?
幸いなことに、SNSの発展のおかげで、多くの裏物語が暴露されるようになりました。昔の、ただの「いぬ・ねこ、きゃわいい~」だけのマンガではなく、近年はレスキューものも多く、人々に「犬猫商売」の真の姿が知られるようになってきたのは、本当によいことです。

断言します。いまの日本に、本当の意味で犬や猫を愛している犬猫ブリーダーなんていません。ただの一人もいません。
いるわけないんです。なぜなら、本当の意味で犬や猫を愛している人であれば、必ず、もう絶対に必ず、犬猫を増やす方ではなく、救助する方にむかうはずですから。
といいますと、世の中には「その血統を残すためにブリーディングが必要」なんて反論する人もいます。でも、だとしたら、ますます変ですよね?血統なるものがそんなに大切なら、なぜ人気商用種のブリーダーがこんなに多いのですか?(一般に純血種とよばれていますが、私はその実態を考慮し商用種と読んでいます)。血統を守る事が本当の目的であれば、それこそ、日本原産の貴重な血統、十石犬とか、日向犬とかをせっせとブリードするはずです。それらの犬種こそ、犬の原種に最も近い、もっとも純粋な イエイヌ Canis lupus familiaris の姿を残した犬種でもあるのですし。しかし、ブリーダーのやっていることといえば、プードルをハンドバッグにはいるくらいに無理やり小型化するとか、ダックスフントをふつうに歩いてもおなかが地面にすれるくらい短足化するとか。「お金ファースト、お金LOVE×LOVE」なこと歴然です。
と、つい脱線してしまいましたが。要は、日本の犬猫のおかれた環境はまだまだ悪いということです。
個人宅のペットたちはまだ愛されている子が多いです。でも流通産業界はどうでしょう?まだ幼い犬や猫を、硝子ケージに閉じ込めて店頭展示販売なんてしている時点で、もう完全アウトじゃないですか?そんな販売方法、すでに多くの国で禁止されていますよ。まして、ペットオークション。このコミックには(まだ)出てきていませんが、ペットオークションは動物虐待以外の何物でもありません。あんなものが合法である限り、日本は動物愛護後進国です。

この『全部救ってやる』は、犬猫レスキューマンガとして、とてもよくできているると思いますが、それだけではありません。ひとりの若い女性の成長物語でもあります。犬猫の命を助ける過程で、スズは今まで気づけなかったことにも気づいていきます。本当に大切なものとは何か。何をどう見つめるべきか。早くも2巻目の終わりで、彼女は一回りも二回りも大きく成長しています。
この後はどう展開していくのか。早く続きが観たいですね。こういう作品は私は全力で応援します。
動物好きな皆さま、どうぞお手に取ってお読みください。おすすめです。
※ネットで最新話の冒頭を無料で見られます。
⇒裏サンデー『全部救ってやる』https://urasunday.com/title/2831


※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

目次
巻01
- 第1話 この世界を知らなさすぎた
- 第2話 何も考えていない
- 第3話 自分で見極めるしかない
- 第4話 動物に縁をつなぐとこ
- 第5話 日本中に家族がいる
- 第6話 ブランドイメージを大切にしろ
- 第7話 私の道が残ってた
巻02
- 第8話 トイレしたいらしい
- 第9話 1頭にかけられる時間
- 第10話 やばい状態のイヌ
- 第11話 図星だったんだ
- 第12話 向き合わないといけない
- 第13話 誰かを映しながら
- 第14話 程よい距離
- 第15話 15念経った今も
- 第16話 私にもできること
- 第17話 飽きたなぁ
『全部救ってやる』
巻01
- 著:常喜寝太郎(つねき ねたろう)
- 出版社:株式会社小学館 裏少年サンデーコミックス
- 発行:2024年
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784098535989
- 192ページ
- モノクロ
- 初出:「裏サンデー」2024念4月29日配信分~7月1日配信分
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:犬
