大山淳子『猫弁と狼少女』

大山淳子『猫弁と狼少女』

「猫弁シリーズ9」。

百瀬太郎、弁護士。依頼されるのはペット訴訟ばかり、で、あだ名は猫弁。癖の強い前髪、丸メガネ、安っぽいスーツ、靴だけは上等。名声欲・出世欲・金銭欲、すべて無し。見るからに冴えない男だが、その頭脳は超優秀で、かのアインシュタインをも凌ぐほどとの噂さえある。

その、善人のカタマリでしかない百瀬が、現行犯逮捕されて、ブタ箱に!?

ストーリー

超天才的頭脳の持ち主でありながら、それ以上に非現実的なまでにお人よしで、かつ常に正しい男、それが百瀬太郎。婚約者の亜子との共同生活にも少しずつ慣れてきて、毎日幸せをかみしめていたというのに。

依頼人の家の真ん前にいた少女をつい心配して追いかけてしまったばっかりに、な、なんと、少女誘拐の建議をかけられて逮捕されて。

もちろん濡れ衣なのに、百瀬はなぜか完全黙秘。そのまま警察に足止めをくらってしまう。

留置場の中にいては依頼人のために働けない。百瀬は沢村弁護士や正水直に代理を頼む。沢村はかつての引きこもり男、頭脳は百瀬と比肩するほど優秀だが超人間嫌いで超付き合い下手。正水直は大学浪人中の元気な女の子。こんなちぐはぐコンビに百瀬の代理はつとまるのか?そして百瀬を無事「ブタ箱」から引き出せるのか?

感想

百瀬太郎、なんかますます透明度を増してきたような。今回がいちばん、しっとり落ち着いていると感じました。堂々としているといってもよいくらい。あのお人よしに「堂々」という形容詞は似合わないようですが、でも、そう感じました。

やはり亜子と暮らすようになったからでしょう。今回は亜子の活躍は少ないのですが、百瀬の落ち着きの背後にどーんと存在していらっしゃいます。百瀬と亜子はまだ籍は入れていません。警察に捕まって、拘留生活を送って、百瀬は亜子に別れを切り出されるかもと覚悟もしています。が、一度でも誰かに深く愛された男は、やはり貫禄が出るんですね。

貫禄まで出てきた弁護士にしては、扱う事件が相変わらず猫がらみな小さな依頼なのが笑っちゃいますけれど。

それにしても、やれ警察だ、刑事だ、裁判だ、弁護だという小説でありながら、これほどふんわりしていて、これほど悪人が不在なミステリーってあるでしょうか?なんとも不思議な世界です。

今回も猫さんそのものの活躍はほぼありません。猫は重要素材としてずっとからんではいますけれど、いわゆる「猫探偵もの」のように、猫が推理したり人命を救ったりなどの活躍はしません。ただいるだけです。でも猫好きな方、とくに女性は、このシリーズにはきっとはまっちゃうと思います。読後感としては、猫のお腹に顔を埋めたような暖かさだけが残ります。つかれた心にやさしい作品です。

 

まとめ:大山淳子「猫弁」シリーズ

 

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

大山淳子(おおやま じゅんこ)

2006年、『三日月夜話』で城戸照入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第3回TBS・講談社ドラマ原作対象を受賞、TBSでドラマ化もされた。著書の「あずかりやさん」シリーズ、『赤い靴』など。「猫弁」シリーズは多くの読者に愛され大ヒットを記録したものの、2014年に第一部完結。2020年に『猫弁と星の王子』で第二リーズをスタート。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫弁と狼少女』

「猫弁シリーズ9」

  • 著:大山淳子(おおやま じゅんこ)
  • 出版社:株式会社講談社 講談社文庫
  • 発行:2024年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784065368732
  • 339ページ
  • 初出:単行本『猫弁と狼少女』株式会社講談社 講談社文庫2023年
  • 登場ニャン物:テヌー、サファイアプリンセス、銀(ぎん)、ふわふわ
  • 登場動物:杉山(タイハクオウム)
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