梶尾真治『猫の惑星』

梶尾真治『猫の惑星』

「この世界の本当の支配者は猫なんだよ。

..人間はまったく気づいていないけれど。」という帯のコピーにひかれて購入。「会話ができる猫と少年の、驚愕と感動の冒険物語」とあれば、猫好きなら興味を感じますよね?

ストーリー

「イクオ」は「シテン」で育てられていた。他の子どもたちといっしょに。大人たちもいた。勉強を教えてくれる先生。毎日の世話をしてくれるママたち。シテンを警備しているオジさんたち。

そして、パパは絶対的な存在だった。シテンでは、パパが喜ぶように勉強することが何より大切で、「パパの言うことに背いたら、バチがあたる」といわれていた。

イクオたちの”勉強”は、ふつの勉強ではなかった。二十分間、精神を集中し、疑似炎を見つめる。そして”力”を解放して、炎の温度を変化させたりする。そう、イクオたちは”力”を育てさせられていたのだった。何のための”力”かは、まだイクオたちは知らない。

その”力”が十分に育つと、パパから”用事”をいいつけられるようになる。なぜそのようなことをするのか、しなければならないのか、イクオたちは知らされていない。ただ”用事”はとても大切で、それをちゃんと遂行すればパパが喜ぶことだけ知っている。

シテンは高い壁で囲まれていて、イクオはその外に出たことはなかった。壁には猫たちが集まって、のんびり昼寝していた。イクオは猫を見に行くのが好きだった。

そんなある日、老いた猫がイクオに話しかけてきて・・・

感想

どこからか集められた子供たち。そこの勉強は、算数や国語ではなく、”力”を強めるという、あやしげなもの。”ママ”は当番制で、誰が誰の担当かさえ決まっていない。”パパ”は絶対的存在。わけのわからない”用事”。そして、なぜか、ある日突然、年長者から”卒業”していなくなってしまう。

卒業した者はどこにいくのかと聞かれて、老猫のウリはこう答えます。

「”力”は、子供しか持てないんだ。子供から大人になろうとするとき”力”は消えてしまう。声変わりするというのが大人になる徴(しるし)なのさ。”力”がなくなれば卒業さ。いなくなるんだよ。処分というのは、消えてしまうということさ。ここから」
page 60-61

イクオにももう、それほど時間は残されていませんでした。イクオより若い子で声変わりして卒業してしまった子もいました。イクオは、猫たちと脱走し、一緒に「猫の王」をさがすことを決意します。逃げるイクオたちに迫る恐ろしい追手。

・・・と、いかにも怪しげな設定なのですが、そのわりには全体的にのんびりした雰囲気?主人公が子供と猫、ということもあるでしょう。しかし、小説の中では人が殺されたりバケモノのような敵が何もかも破壊したりしているのです。おどろおどろしいモノも現れるのです。にもかかわらず、私は不気味さより、おとぎ話のような雰囲気で読み進めました。

そして、思いがけない最後。良い意味で、大きく裏切られます。お、そうきたか!ってカンジ。読み終わって改めて見てみますと、この文庫版の表紙の絵、小説の雰囲気を実に巧みに表していますね。子供の読み物ってわけではありません。でも子供こそ夢中で楽しめそうな内容ではあります。

梶尾真治氏の著書は『恐竜ラウレンティスの幻視』とこの『猫の惑星』の2冊しか読んでいませんが、どちらも、恐ろしい場面があっても全体的にみれば明るく、ところどころユーモアが感じられる作品でした。猫たちと子供が強力な敵とたたかう。見ている方も、キャーと目をふさぐのではなく、がんばれ~と声援を送りたくなるような、そんな戦い方です。

そして。猫のウリの言葉は多分正しいんです。

「人々は、この惑星は人間が支配していると信じている。人間が社会を構成し、国家ごとに諍いがありつつも平和を維持し、微妙なバランスの上で曲りなりにも世界を支配してきたと。ただ、それは単なる思い込みだ。本当の世界の支配者は猫なのだよ」
page 115

イクオと猫たちの最大の敵とは何か、それは読んでのお楽しみということで。ぜひ、どうぞ!

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

梶尾真治(かじお しんじ)

1971年、「美亜へ贈る真珠」で作家としてデビュー。91年、『サラマンダー殲滅』で日本SF大賞、2016年『怨讐星域』で星雲賞(日本長編部門)を受賞。2003年には『黄泉がえり』が映画化され、原作、映画共に大ヒットを記録した。主な著書に『おもいでエマノン』をはじめとする「エマノン」シリーズ、『地球はプレイン・ヨーグルト』『未来惑星キー・ラーゴ』『デイ・トリッパー』『杏奈は春待岬に』『黄泉がえりagain』などがある。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫の惑星』

  • 著:梶尾真治(かじお しんじ)
  • 出版社:株式会社PHP研究所 PHP文芸文庫
  • 発行:2019年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784569768922
  • 296ページ
  • 初出:2015年PHP研究所
  • 登場ニャン物:ウリ、クロ、アル、ベー、ガブ、クサレ、シビレ、ヨゴレ、他
  • 登場動物:
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