中原一也『はけんねこ』2

副題:~NNNと野良猫の矜持~ 「はけんねこ」シリーズ第2弾。
【NNN】 ねこねこネットワーク。インターネット上でまことしやかに囁かれている都市伝説。猫による猫のための組織。猫好きの人のいる家に最高のタイミングで猫を派遣する謎の秘密結社。野良猫が生涯飼い猫として幸せに暮らせるよう、日々暗躍している。
主猫公は「ちぎれ耳」と呼ばれる、年配の牡。生粋の野良だが、人間との間にはある辛い過去も持つ。NNNの中心ニャン物的存在である。他のメンバーは、珍しいサビ柄牡の「オイル」、野良なのに猫にも人にも懐っこい「ふくめん」、名の通りの情報網「情報屋」、ほか。
NNNのたまり場は CIGAR BAR「またたび」だった。マスターが最高の技術で丹精込めて熟成させた最高のまたたびを吸わせる店だ。コイーニャ、ニャ・ドルセー、ロメオ・ニャ・フリエタ、ニャンテクリスト、パルタニャス、ネコニダ、等々。どれもマスターの手にかかれば絶品となる。
「またたび」には常連客以外の客もやってくる。その多くが野良牡なのは、CIGAR BAR という店の特徴から当然だろう。最近よく来るようになった新顔は、顔のデカい牡で、喧嘩の後遺症で顎が曲がっている。「ちぎれ耳」に引けを取らない猫相の悪さだ。性格もひねくれている。
かとおもうと、年寄り牝があらわれたり。さらにその牝が、場違いなお嬢ちゃんを連れてきたり。さらにさらに、とんでもない珍客まで現れて。
NNNは休む暇もないのだった。
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ますます面白い『はけんねこ』シリーズ。なにしろ、まず、カバー裏に書かれた著者プロフィールが↓コレ↓です。
|Novel|中原一也(なかはら・かずや) 一匹でも多くの野良猫、野良犬、行き場を失った動物たちに飼い主が見つかりますように。
こんなプロフィールってありますか?そもそも、これって「プロフィール」なんですか?このプロフィールだけで、もうこの本、「合格!」の太鼓判が押せちゃいますよね(何に合格なのかわかりませんけれど)。
またたびの葉巻をくゆらせながら、バーに通う野郎野良共、絵としては猫版ハードボイルド、でもその話す内容といえば、どこそこに捨てられた子猫がいるだの、どうすれば助けられるかだの、どこの家なら飼ってくれそうかだの、人間ボランティア顔負けの、猫救助の話ばかり。悲しいかな猫にできることは限られています。何より人間と言葉が通じないのがもどかしい。けれども、彼らは決してあきらめません。だってどの野良猫も、ある大事な人間との辛すぎる過去をかかえているのですから。
猫達の現実を、そのまんま描いているのがいいですね。野良猫の生活の厳しさ。あまりに身勝手な人間、虐待するような恐ろしい人間。その一方で、猫を心から愛し大事にしてくれる人間。大事なあの子を何年たっても決して忘れない人間。中には、猫を深く愛しているのに、何もできない無力な人間も。
「害獣」の話もでてきます。害獣なんていうけれど、彼らはただ、必死に生きているだけなんです。
いい本だなあ。こんなにステキな猫小説、今まで知らなかったのが損した気分です。ここまで良い作品だと、下手に感想とか書きたくなくなります。私なんかが何か解説しちゃったら、この良さをぶち壊すだけとなりかねませんから。
ということで、ぜひ、読んでください。
※最後の話は、泣きそうなエンディングです。猫好き著者が何故こんな話を書くのと恨みたくなるような話です。でも、ここは猫愛護サイト、猫好きさんが来る場所、なのであえてネタバレしますけれど、この『はけんねこ』シリーズはまだ続きがあるのですからね。どうぞ次の「あなたの想い繋ぎます」まで読み進めてくださいね。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

目次(抜粋)
第一章 新顔
第二章 めずらしい猫
第三章 あんこ婆さん
第四章 害獣
第五章 ゆみちゃんとちゃーちゃん
著者について
中原一也(なかはら かずや)
一匹でも多くの野良猫、野良犬、行き場を失った動物たちに飼い主が見つかりますように。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『はけんねこ』
NNNと野良猫の矜持
- 著:中原一也(なかはら かずや)
- 出版社:株式会社二見書房 二見サラ文庫
- 発行:2020年
- 初出:(書き下ろし)
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784576201351
- 294ページ
- 登場ニャン物:ちぎれ耳、チョビ、オイル、ふくめん、あんこ婆さん、タキシード、爺(ぼた餅)、情報屋、ちゃあこ、他多数
- 登場動物:ラスク(アライグマ)
