改訂5版『鳥獣保護管理法の解説』
正式名称は【鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律】。
本は二部構成になっています。
本編部分は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」の書く項目を逐一ていねいに解説したものとなっています。ここは横書きで、本も左開き。
巻末に参考資料。巻末、といってもページ数は本編部分より多くなっています。しかも縦書きの右開き。こちらは解説はありません。内容は、
- 法令等
(1)鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律・施行令・施行規則早見表
(2)鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針
(3)鳥獣による法輪水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律
(4)鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律第9条第8項の規定に基づき環境大臣の定める法人
(5)夜間猟銃をする際の安全確保に関する技能の要件
(6)環境省関係鳥獣による農林水産業等にかくぁる被害の防止のための特別措置に関する法律施行規則
(7)鳥獣による農林水産業等にか川qる被害の防止のための特別処置に関する法律附則第3条第1項に規定する特定鳥獣被害対策実施隊員等に関する命令 - 主な取扱要領等
(1)鳥獣捕獲許可等取扱要領
(2)国指定鳥獣保護区指定等実施要項
(3)国指定特別保護区内行為許可取扱要領 - 国会決議
(1)鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案に対する付帯決議
(2)鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案に対する付帯決議 - 審議会答申等
(1)抜本的な鳥獣捕獲強化対策
(2)鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき講ずべき処置について答申
法律書ですし、こんな書物を最初から最後まで熟読する人間なんて、私のような野生動物好き以外では、法学部の学生か法曹関係者くらいでしょう。猟師だっておそらく全部は読まないんじゃないでしょうか。読み終えた今、一般の方々にお勧めする気も毛頭ありません。が、野生動物保護活動に携わる人間であれば、一通り読んでおいて損はないと思います。
令和6年(2024年)、ヒグマとツキノワグマが「指定管理獣」に追加されました。
指定管理鳥獣とは、「全国的に生息数が著しく増加していたり、生活環境や農作物、それに生態系に被害を及ぼしたりする野生動物で、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして、環境大臣が定めた鳥獣」を指します。
具体的には、政府主導で積極的に駆除=殺しまくれ、という鳥獣のこと。・・・と怒られそうですが、でも、実態はそういうことに他なりません。なにしろ政府は、対象の動物達の数を10年以内に半減させろと鼓舞しているのですから。(「シカ・イノシシの捕獲強化対策と捕獲目標について」令和5年9月1日 環境省 農林水産省)
今まではニホンジカとイノシシが指定されていました。そこに四国の個体群等(※1)を除くクマ類(ヒグマ及びツキノワグマ)が新たに指定されたというわけです。(本書発行後の追加になりますので本中の記載では当然クマたちは含まれていません。)
平成十四年環境省令第二十八号
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則(用語) 第一条この省令において使用する用語は、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成十四年法律第八十八号。以下「法」という。)において使用する用語の例による。
(指定管理鳥獣) 第一条の三法第二条第五項の環境省令で定める鳥獣は、Ursus arctos(ヒグマ)、Ursus thibetanus(ツキノワグマ)(徳島県、香川県、愛媛県及び高知県の個体群以外の個体群)、Sus scrofa(イノシシ)及びCervus nippon(ニホンジカ)とする。
たしかに近年は、クマ関連ニュースが増えています。クマが市街地で目撃されたとか、人が襲われたとか。ツキノワグマは体は小さい、とはいえ、ヒグマに比べれば、という話で、ツキノワグマと並みの人間では、大の男でも全くかないません。ましてヒグマとなれば、軽トラックでも負けるくらいで、人々が恐れるのもわからないではないのですが・・・
今から約150年前の明治10年(1877年)、当時の明治政府は、北海道に生息するエゾオオカミの駆除に乗り出しました。理由は「馬を襲うから」。その奨励策は11年後の1888年に廃止されましたが、エゾオオカミたちの受けた影響は取り返しのつかないものでした。絶滅してしまったのです。たった11年で。その後、エゾシカが増えて農林業界が困るようになったのはご存じの通り。
日本は、クマたちについても、エゾオオカミの愚を繰り返すつもりなのでしょうか?
日本政府が野生動物達、とくに、狩猟対象となるような動物達についてどのように考えているのか、一度全体的に見ておこうと考え、この本『鳥獣保護管理法の解説』を購入しました。そして、法文はもちろん、その解説、および法令その他の巻末の参考資料まで、すべてじっくりと目を通してみました。
国はとにかく野生動物を「管理」したい
本著の「はじめに」には、以下のように書かれています。
(前略)従来の鳥獣保護を基本とした施策から、種によっては積極的な個体群等の管理を実現するための施策への転換を強く提言した。
具体的には、鳥獣の捕獲は、状況によっては公的な事業として推進されるべきこと、また、捕獲の担い手は、狩猟者のみに頼るのではなく、社会として専門的な事業者を確保・育成していく必要があることなどを示している。
「はじめに」より
具体的には、「認定鳥獣捕獲等事業制度」の導入や、網猟免許及びわな猟免許の取得年齢を20歳から18歳へ引き下げ等が行われました。その結果、法律の名前までもが、
(前略)もはや鳥獣の「保護」の範疇に収まらないことから、題名、目的に「管理」を加えるとともに、計画体系等の生理も行うこととなった。
「はじめに」より
「管理」と聞こえのよい言葉を使っていますけれど、要は「野生動物は増えるな、増えたらぶっ殺して減らせ」という政策です。少なくとも私にはそう読めました。
この鳥獣保護法(狩猟規制の制定)は、明治25年(1892年)の「勅令第84号」にもとを発します。これは130年以上も前は、政府が、狩猟を規制し保護鳥獣を決めなければならないと考えるほど野生動物達が減ってしまっていたとことを意味します。明治25年ごろの日本の人口は4千万人あまりと、現在の約3分の一しかありませんでした(※2)が、その半数以上が農業に携わっていました(※3)。農作物を守る為、その他、野生動物達を殺しまくった結果でしょう。その後しばらくは、日本史上、もっとも野生動物の生息数が少ない時期が続きます。
その後、130年余たった今、日本の農業従事者は激減、わずか130万人ほどとなってしまいました。ここまで「見張り」が減ったこともあり、最近やっと、一部の野生動物達が復興の兆しを見せてきたのです。異常に数が増えたとかではなく、一時期減りすぎた数をようやく戻しつつあるのだと、私は考えています。
これはしかし、もし何かあれば、野生動物達はたちまちまた絶望的に数を減らし、下手をすれば絶滅する種も出てくるだろうということでもあるでしょう。人間活動のせいで、ニホンオオカミやエゾオオカミやニホンアシカやニホンカワウソが絶滅してしまったように。
たとえばそのニホンカワウソ。昭和25年(1950年)の法改正までカワウソも狩猟対象だったのです。それが今は絶滅してしまった、それは皆さまもご存じの通りです。
全体的な感想としましては、日本は動物達の中でもとくに哺乳類に冷淡な国だな、というものでした。哺乳類は、我々人類も属する生物群。一番身近な存在の動物達です。その仲間に対して、いかにも冷たく、そっけない。たとえば、哺乳類に限って原則放獣しないとか(※4)。なんだかなあ・・・
全地球の哺乳類で、野生動物が占める割合はわずか4%
人類の登場以来、野生動物達の数が減り続け、とくに近代にはいってからは激減しています。
地球上の哺乳類のバイオマスは、重量ベースで60~62%が家畜、34~36%が人間、そして野生動物は、ゾウもカバも、さらに海洋動物のクジラやトドもいれて、わずか4%!
(上の表では犬猫等ペット総数は1%に満たないので図にありません)。
哺乳類と、鳥類。
いまや地球上にわずかしか存在しなくなってしまった、貴重な野生動物たち。そんな野生動物であるシカたちを、近年の日本政府は「殺して食べろ」と国民に強いています。そして踊らされた一部の人間たちが、狩猟だジビエだと張り切っています。
私としてましては、なんとか共生の道に進んでほしい、進むべきだと願ってやみません。
※ 注 ※
※1=対象狩猟鳥獣の捕獲等の禁止又は制限)
第十条法第十二条第一項第一号の環境大臣が禁止する捕獲等は、次の表の上欄に掲げる対象狩猟鳥獣ごとに、それぞれ同表の中欄に掲げる区域内及び同表の下欄に掲げる期間内において行う捕獲等とする。
(「表」の書き写しは省略し、以下、該当箇所だけ書き出します)
対象狩猟鳥獣:ツキノワグマ
捕獲等を禁止する区域:三重県、奈良県、和歌山県、島根県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県の区域
捕獲等を禁止する期間:令和四年九月十五日から令和九年九月十四日まで
※2=[国立社会保障・人口問題研究所]発表の『表1-2 日本人人口,人口増加,性比及び人口密度:1872~1920年』によれば、1892年(明治25年)の日本の人口は40,508,000人。
※3=[総務省統計局]の『統計の歴史トリビア 第一回国勢調査で一番多かった職業はなに?』によれば、大正9年国勢調査による農業従事者は51.6%。
※4=(2)鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針
(平成二十八年十月十一日 環境省告示第百号)
Ⅲ 鳥獣保護管理事業計画の作成に関する事項
第三 鳥獣の人工増殖及び放鳥獣に関する事項
2 放鳥獣等
(2)哺乳類
狩猟鳥獣である哺乳類については、原則として、放獣を行わない。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
- 目次
- Ⅰ 我が国の鳥獣法制の沿革
- Ⅱ 逐条解説
- 第1章 総則(第1条・第2条)
- 第2章 基本指針等(第3条‐第7条の4)
- 第3章 鳥獣保護管理事業の実施
- 第4章 狩猟の適正化
- 第5章 雑則(第75条‐第82条)
- 第6章 罰則(第83条‐第89条)
- 参考資料
- 1.法令等
- 2.主な取扱要領等
- 3.国会決議
- 4.審議会答申等
改訂5版『鳥獣保護管理法の解説』
- 監修:環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室
- 出版社:株式会社大成出版社
- 発行:2020年
- NDC:320(法律)
- ISBN:9784802832359
- 795ページ