梶尾真治『恐竜ラウレンティスの幻視』

軽いタッチのSF短編集。
収容されている短編は8篇。
そのうち、恐竜が出てくるのは、タイトルにもなっている「恐竜ラウレンティスの幻視」だけである。
ラウレンティスは、ディノニクスという種の恐竜だった。
ディノニクスとは「恐ろしい爪」という意味のラテン名である。
二足歩行の肉食竜。体長は3~4m、長い尾でバランスを取りながら、敏捷に走り回っていたと考えられている。
その前足はもちろん、後ろ足にも大きく鋭い爪が生えていて、中でも第2指の巨大爪は長さ13cmもあった。
この爪は、歩行時は地面から持ち上げられ、摩耗や破損から守られていた。
そしていざ狩りの時は、強靭な後ろ足で獲物に飛びかかり、この爪をナイフのように使って、相手を倒したと考えられる。
当然、知能も、そこらの草食竜よりはるかに高かっただろう。
そんなディノニクス達に、ある日突然”知性珠”が降り注ぐ。
・・・・・”知性珠”によって、知恵が生まれる。知恵は、進化する。知恵は、大変動に対処できる力を生みだせる。大量絶滅から生き残れる力は”知性珠”からしかもたらされない・・・
page58
宇宙の誰かが、恐竜たちが5500万年後に滅んでしまうことを惜しんだのだろう。
知能の高いディノニクスたちを選んで、その知能をさらに発展させ、将来の大量絶滅から救おうとしたのである。
ラウレンティスは、早くも芽生えはじめた「知性」で、将来を夢見はじめる・・・

梶尾真治『恐竜ラウレンティスの幻視』
「恐竜ラウレンティスの幻視」以外の作品について。
「地球屋十七代目天翔けノア」「発電の日」「無実の報償」は、ユーモアが効いたSF。
「あぶきっちん」は、考えればかなり不気味な内容なのに、軽い文章でどこまでも楽しい雰囲気に作り上げてある。
「芦屋家の崩壊」は、本来はもっと軽くほんわかした短編なんだろうけれど、阪神淡路大震災や東日本大震災を経た今、最初に読んだ時と感想が違ってしまった。崩壊しているのにむしろ羨ましく感じた。
「時尼(じにい)に関する覚え書」は、とても美しい短編だと思う。
と、いうわけで。
この1冊は、恐竜ファン向けというよりは、軽いSFファン向けの本です。
(2011.1.30.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『恐竜ラウレンティスの幻視』
- 著:梶尾真治(かじお しんじ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:1991年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4150303584 9784150303587
- 267ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:ディノニクス、その他恐竜たち
目次(抜粋)
地球屋十七代目天翔けノア
恐竜ラウレンティスの幻視
発電の日
あぶきっちん
無実の報償
紙風船
芦屋家の崩壊
時尼(じにい)に関する覚え書