宮崎徹『猫が30歳まで生きる日』

宮崎徹『猫が30歳まで生きる日』

副題:治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見

宮崎先生は、人間のお医者さん。獣医師ではありません。臨床医として勤務したとき、この世にあまりに「治せない病気」が多いことに愕然とします。不治の病と恐れられていた癌さえ、近年は治療法が発達してきたというのに、その一方でこの「治せない病気」の多さは何だ?

宮崎先生はあることに気づきます。それら「治せない病気」の多くにみられる共通点、それは免疫機能にあること。体の外からやってくる病原菌等ではなく、もともとヒトの体の中にある何かが狂ったり、少しずつ堆積されたりして、病気になっていることが多いこと。

そこで基礎医学の研究者として再出発することにしました。免疫学の研究です。

その過程で、あるタンパク質を発見します。先生は「マクロファージの細胞死(アポトーシス)を抑制する分子」――「Apoptosis Inhibitor of Macrophage=AIM」と名付け、1999年に世界に発表しました。

しかしこのときは発見しただけで、AIMの働きはわかっていなかったのです。その後、いろいろ実験したが、やっぱりわからない。一時期わっと増えたAIM研究者も次々とやめてしまって、とうとう研究を続けているのは世界で先生ただ一人となってしまいました。

それでも、何かひっかかって、先生はあきらめなかったのです。

その理由を問われても、うまく説明することができない。「このタンパク質が血液の中に高濃度で存在するのだから、生体にとってなんらかの重要な意味があるのだろう」と考えたことはあるが、なんとなく「これはちゃんと研究したほうがいいな」と思っただけだった。
page 75

そんなある日、ふとしたきっかけから、視線を変えてみます。それまでは免疫に関係するとばかり思っていたAIMですが、

「動脈硬化に関係するタンパク質だったのかもしれない・・・」と思った。 つまり、免疫学の眼でばかり研究していたから、いくら研究してもAIMの正体が見えなかったのではないか、と考えたのだ。
page 81

まさに、ビンゴ!でした。

さらに先生の研究は続きます。そんな数年後、もうひとつのブレークスルーが。それが、二人の獣医師との偶然な出会いでした。

その獣医師たちは宮崎先生のセミナーを聞きに来ていたのです。そして、終了後に、こんな質問をしてきました。

(前略)開口一番、「ネコにはAIMはないのですか?」と質問され、少々面食らった。
page 154

「あと、ネコはなぜかものすごく腎臓病が多いのですよ。ほとんどのネコは腎臓病で亡くなるのです。その理由がわからないし、治療法もないのです」とおっしゃったことに、私は大変驚いた。
なぜなら、そのころちょうどAIMと腎臓病のかかわりについて本格的な研究を始めたところで、AIMを持たないノックアウトマウスでは腎臓病が起きると回復せず、すべてのノックアウトマウスが重症化するという実験結果を得ていたからだった。
page 155-156

それまでヒト医療の研究ばかりしていた宮崎先生。しかし、この獣医師たちの発言にアッとひらめき、それからはネコとAIMの研究に精を出します。そして、ついに!

ネコはAIMを持っていないのではありませんでした。ただ、なぜかそれがちゃんと働かない仕組みになっていたことを発見されたのでした。

AIMさえ働かせることができれば、ネコの腎臓病は激減し、寿命も30歳まで伸びるかもしれない!

宮崎徹『猫が30歳まで生きる日』

愛猫家にとって夢の薬の実用化はいつ?

そのニュースを読んだ時の、私の興奮は今でも覚えています。うちの猫たちも皆、年を取ると腎臓が弱って、長生きした子でも20歳でこの世を去ってしまったのですから。

残念ながら、まだ「夢の薬」は一般実用化には至っていません(2024年8月現在)。しかし、2026~7年ごろに承認を目標に、臨床試験が繰り返されているそうです。早く、早く完成してほしい!!私を含め、世界中の愛猫家が首をキリンよりも長くして待っています。

それは、ある出来事からもわかります。2021年、新型コロナCOVID-19のパンデミックで、企業からの資金援助が打ち切られ、研究を中断せざるを得なくなってしまいました。するとたちまち、世界中の愛猫家から約3億円もの寄付金が集まったのです。それも、先生からお願いしたのではなく、打ち切りを知った愛猫家たちが自発的に支援したとのこと。そのことはニュースにもなりましたね。おかげで研究を続けることができたのでした。

これほど多くの愛猫家が待っている薬、ああ、早く、完成してください!それから、宮崎先生はもちろん、AIMとネコを結び付けてくださった獣医師の小林元郎先生と廣瀬友亮先生に心からの感謝の気持ちを申し上げたいです。

宮崎徹『猫が30歳まで生きる日』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

  • 序章 「余命1週間」からの復活
  • 第1章 臨床から基礎医学の世界へ
  • 第2章 研究の修業時代
  • 第3章 謎のタンパク質「AIM」との出会い
  • 第4章 〈治せない病気〉とAIM
  • 第5章 AIMによる”ゴミ掃除”と腎臓病
  • 第6章 ネコの腎臓病とAIM
  • 第7章 腎臓病のネコにAIMを投与
  • 第8章 ネコ薬の開発
  • 第9章 臨床試験に向けて

『猫が30歳まで生きる日』

治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見

  • 著:宮崎徹(みやざき とおる)
  • 出版社:株式会社時事通信社
  • 発行:2021年
  • NDC: 480(動物学) 489.53(哺乳類・ネコ科) 645.6(家畜各論・犬、猫) 726(マンガ、絵本)748(写真集)913.6(日本文学)小説 914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784788717558
  • 242ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:キジちゃん、てとちゃん、ほか
  • 登場動物:マウス
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この子も、腎臓が悪くなって、最後はこんな姿になってしまったのでした。このとき、20歳。愛する猫の、こんなに弱った姿を見ないで済めば、どれほど多くの飼い主が喜ぶことでしょう。

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