亀谷了『寄生虫館物語』
副題:『可愛く奇妙な虫たちの暮らし』。
私が今一番訪れたい場所のひとつが、東京は目黒にある寄生虫館だ。
丸一日、開館から閉館までじっくりと眺めよう。そしてお土産にサナダムシTシャツを買おう。どれほど楽しいだろう。
亀谷先生は、寄生虫に魅了された医者だ。寄生虫が可愛くてたまらない。一日中、寄生虫のことばかり考えている。
先生の夢は、寄生虫館の設立だった。最初にできた寄生虫館は、15坪のバラックで、標本数点に図書数冊および掛け軸ひとつというお粗末さ。
しかし先生の夢は膨大だ。あらゆる人に頭を下げて寄生虫を集めてまわる。10年間で服はただ1着しか作らなかった。だからポケットの縁などボロボロになって房のように垂れ下がったが、先生は平気だ。
動物の死体をみれば持ち帰って解剖する。動物の糞を集めては丹念に顕微鏡で見る。糞だらけの研究室で弁当を食べながら小さな虫片に歓声を上げる。先生が世界ではじめて発見した寄生虫も多い。
中でも印象深いのは、シーラカンスの解剖である。
シーラカンスは3億年以上前に地球上にあらわれ、数千年前に絶滅した。と、ずっと信じられていた。それが、生きた個体が発見された。世界中が驚愕した。
捕獲された個体のひとつが、なんと日本にくるという。
さあ先生、解剖したくてたまらない。シーラカンスを、ではない。シーラカンスに寄生する寄生虫を調べたいのだ。思い切って問い合わせてみたら、なんとあっさり許可が出た。研究解剖チームに参加できることになった。
先生の喜びと興奮に読んでいる方もワクワクする。
寄生虫っておもしろい。気持ち悪いと思う人が多いかもしれないが、知れば知るほど寄生虫って面白い。私も最近寄生虫の面白さに魅惑され始めた人間だ。
それに寄生虫っていじらしい。一生懸命、生きているって感じ。なんだってこんなに率の悪い生き方を選んじゃったんだろう?もっと楽な生活があるのに、なんだって一生暗い腸などの中にぶら下がって、こそこそと生きているのだろう?
本の最初の方は、珍しい寄生虫、面白い寄生虫、恐ろしい寄生虫など、寄生虫雑学が面白おかしく書かれている。これだけでも十分に面白いのだが、私は後半の、先生の熱意の方によりうたれてしまった。
寄生虫なんかと毛嫌いせず、一度読んでみて欲しい。
(2007.8.25.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『寄生虫館物語』
可愛く奇妙な虫たちの暮らし
- 著:亀谷了(かめがい さとる)
- 出版社:文藝春秋 文春文庫
- 発行:2001年
- NDC:491.9(基礎医学)寄生虫学
- ISBN:4167660091 9784167660093
- 238ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:寄生虫たち
目次(抜粋)
第1章 とても楽しい寄生虫の暮らし
第2章 寄生虫の愛の姿
第3章 不思議な顔をした寄生虫館の住民たち
第4章 シーラカンスの”新”寄生虫発見記
第5章 寄生虫に魅せられ愛した人間たち
第6章 まだまだそこに寄生虫がいる
第7章 寄生虫館物語~寄生虫館ができるまで