木内昇『茗荷谷の猫』
東京は下町で暮らすひとびと。
1篇ずつ独立していながら、全体としてゆるいつながりを持った短編集。
短編の舞台は、時代は江戸末期から昭和初期にかけて、場所は東京の各地である。
登場人物たちは其々の人生を生きながら、つながりともいえぬほど淡い接点で、なんとなく繋がっている。
しっとりとした作品が多い。
猫はまず、表題の『茗荷谷の猫』に出てくる。
名もない野良母さんと、子猫たち。
いつの間に縁の下で出産してたのだろう?
その親子をぼんやりと見つめる「私」は売れない絵描き。
もともとは平凡な主婦だったのだ。
絵をかくのが好きというだけの。
それが、ひょんなことからプロの画家となり、そして、
夫は思いがけぬ事故で亡くなった。
行き詰っている。
売れるためには、売れる絵に転回しなければならないこともわかっている。
だけど進みたくない。変わりたくない。
猫たちを眺めながら、今日も静かな日を過ごす。
・・・あれ?なんだろう、猫たちの様子が変?
『仲之町の大入道』には、猫は出てこないが、その登場人物は、猫にきわめて縁の深い人物である。
知る人ぞ知る愛猫家である。
さてそれが誰であるかは、ご自身でお読みください。
『隠れる』にも猫が出てくる。
ちょっとした脇役にすぎないのだけど、非常に重要なきっかけを与える役どころである。
そして物語は、主人公の意図せぬ方向へとどんどん進んでいく。
どの短編も、とても面白く良いのですが、猫の登場が少ないのが残念。
(2011.12.28.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『茗荷谷の猫』
- 著:木内昇(きのうち のぼり)
- 出版社:文芸春秋 文春文庫
- 発行:2011年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784167820015
- 262ページ
- 登場ニャン物:野良(「隠れる」)、その他無名の猫たち
- 登場動物:-
目次(抜粋)
一 染井の桜・・・・・巣鴨染井
二 黒焼道話・・・・・品川
三 茗荷谷の猫・・・・・茗荷谷町
四 仲之町の大入道・・・・・市谷仲之町
五 隠れる・・・・・本郷菊坂
六 庄助さん・・・・・浅草
七 ぽけっとの、深く・・・・・池袋
八 てのひら・・・・・池之端
九 スペインタイルの家・・・・・千駄ヶ谷
解説