熊谷達也『ウエンカムイの爪』

北海道の大自然の中を、ヒグマを探して歩く。
新米動物カメラマン、吉本憲司は、死を覚悟した。突然現れた巨大ヒグマ。ヒグマはひとっ飛びで眼前わずか3メートルに迫り、恐怖のあまり逃げようとした吉本は転倒する。
まさに絶体絶命。
と、そのとき。
どこからともなく、女が現れた。
謎の女は吉本とヒグマの間に平然と割り込む。するとヒグマはなぜかその女に操られ、吉本は九死に一生を得る。
そのしばらく後。
北海道の大自然の中でキャンプを楽しんでいた東京の大学生4人組が、ヒグマに襲われるという事件が起こった。
吉本に、北海道大学ヒグマ調査隊の取材の仕事がはいった。ヒグマに発信機をつけて行動を調べる。
いわゆるテレメトリー法である。
それにはまず、野生ヒグマの捕獲だ。吉本はヒグマ研究家やクマ撃ち猟師、学生らと共に、山を歩くようになる。
ヒグマに関する知識も増えた。アイヌの人々は、本当に悪くて人間を食うクマのことを「ウエンカムイ」、善いクマのことを「キムンカムイ」と呼ぶことも知った。
吉本は、またあの謎の女に会えるのか?
学生達を襲った人食いヒグマの行方は?
ところで、ここに登場する猟師の“柿崎”のモデルは、姉崎等氏ですよね?
本のどこにも書いてないけれど、まず間違いないと思う。
著者の熊谷達也氏は驚異的なまでの情報を集めてから本を書く人だ。
一方、姉崎氏は“アイヌ民族最後のクマ撃ち猟師”とよばれる人で、猟を止めた後もヒグマ防除に尽力し、北大のテレメトリー調査にも協力した経歴の持ち主。
本の中では猟師・柿崎はあくまで脇役だけれども、どっしりとした存在感があり、これぞ男って感じで、実にかっこいい。
きっと実際の姉崎氏もこんな人物なんだろうなあと思いながら読んだ。
このように、脇役一人にも裏付けがあるような、野生動物に関する深い知識に基づいて書かれた小説なので、読んでいて気持ちがよかった。
ヒグマが変に擬人化されたり、必要以上に邪悪に書かれたりしていないのも、安心して読める要素だ。
シートンの動物小説を読むときと似た感覚だ。
しかしストーリーはシートンよりずっとドラマチックで波乱に満ちている。
どうぞ思い切り楽しんでください。
(2009.11.7.)

熊谷達也『ウエンカムイの爪』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ウエンカムイの爪』
- 著:熊谷達也(くまがい たつや)
- 出版社:集英社文庫
- 発行:2000年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784087472301
- 210ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:ヒグマ