熊谷達也『漂泊の牙』

熊谷達也『漂泊の牙』

 

絶滅したはずのニホンオオカミか!?

凄惨な事件が起こった。主婦が、何かの動物に食い殺されたのである。

同じ頃、オオカミを目撃したという人間が複数現れた。主婦殺しの犯人はオオカミだという説が、地域住民や、マスコミの間にまで流れはじめる。

もちろん、警察は信じない。ニホンオオカミは100年も昔に絶滅したことになっているからだ。野犬のしわざだろうと、大がかりな捜索隊を結成して山狩りするが、謎の動物は見つからない。

そうこうしている間に、また人が食い殺された。さらに、また。

観光地である。スキーシーズンが始まったばかりの稼ぎ時である。もう大変な騒ぎとなった。このままでは地域の経済が死んでしまう。警察は躍起となって、犯人、否、犯犬を狩り出そうとする。一応人間による殺人およびカモフラージュの線でも調査するが、被害者同士に繋がりが見つけられず、やはり動物のしわざと結論する。

最初に殺された主婦の夫は、実は動物学者、それも、オオカミ研究家だった。
外国に長期滞在中だった夫は急遽帰国し、警察とは別に、単独で調べはじめる。おのれの動物的感だけを信じ、深い雪中を歩き回る。

そんな彼に目を付けた女性ジャーナリストがいた。彼に頼み込み、やっと同行の許可を貰う。

しかし、動物はなかなか捕まらない。獰猛な野犬なのか?それとも、もしや、本当にオオカミなのか?

あまりに怪奇な人間関係、どんでん返しにつぐどんでん返しの、意表をつく展開に、夢中で読んだ。おもしろい!

ストーリーも面白いが、それ以上に、これほど動物がしっかりと描かれた推理小説は、私の知る限り、他にないのではないだろうか。そのくらい、オオカミなり野犬なりがきっちりと描かれていた。読んでいて実に心地よい。

あまりに正確に描かれているので、作者が用意したおそらく最初の「大どんでん返し」は、イヌ科にくわしい人なら当然すぎる結果で、「やはりね」で終わってしまうだろうけれど。

一気に読み終えて、巻末の【参考文献】を見て、笑ってしまった。推理小説に参考文献が載っているとは珍しいが、しかもその内容が・・・なんと私の読んだオオカミ本とほぼ全部一致しているではないか!

動物関連の参考文献は全部で21冊、そのうち、実に19冊までを私も読んでいる。読んでいない2冊は、探したが手に入らなかった本だ。他人とこれほど読書歴が一致するというのは滅多にないこと。どうりで気持ちよく読めたわけだ。オオカミに対する思い入れが、これほど似ているなら、その人が書いた作品も気に入るに決まっている。

となると、この著者の他の作品も全部読まなきゃならないな。あ~楽しみ♪

(2009.6.3.)

熊谷達也『漂泊の牙』

熊谷達也『漂泊の牙』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『漂泊の牙』

  • 著:熊谷達也(くまがい たつや)
  • 出版社:集英社 秀英文庫
  • 発行:2002年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4087475131 9784087475135
  • 406ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:オオカミ、犬

 

著者について

熊谷達也(くまがい たつや)

宮城県生まれ。東京電機大学理工学部卒。97年「ウェンカムイの爪」で第十回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。著書に「漂泊の牙」(第十九回新田次郎文学賞受賞)、「まほろばの疾風」「山背郷」など。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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熊谷達也『漂泊の牙』

9.1

動物度

8.5/10

面白さ

9.9/10

猫好きさんへお勧め度

9.0/10

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