日下圭介『猫が嗤った』

日下圭介『猫が嗤った』

 

テレビでは「女動物医事件簿」という名前で映像化されたシリーズ。

探偵役を務めるのは、美人獣医の栃尾彩子、27歳。テレビでは山口智子さんが演じていました。

この獣医、とにかく好奇心が強くて、事件と聞けば無理にでも頭を突っ込む。そして、動物達をヒントに、鋭い推理力で次々と犯人を当ててしまう。

本の題名には「猫」がついているが、猫はあまり活躍しない。どのストーリーも焦点はあくまで人間にある。動物達は小道具の一つ程度にしか使われていなく、それが残念だった。

テレビの方は、私は第一話「耳を噛む犬」を偶然見た記憶があるが、テレビの方がずっとうまく動物を使っていた。
映像と文章の違いはあるかもしれない。
しかし、本の中では、犬にせよ猫にせよ、動物そのものに対する視線というものをあまり感じられなかった。

あくまでこの本を読んだだけの私の印象だが、おそらく作者の日下圭介氏は犬や猫を飼った経験はあまりおありではないのだろう。動物は好きそうだけど。

というのも、作者が動物病院についてあまりお詳しくないようなので。
たとえば、外来の時間中にいろいろ手術していること。
ふつう、獣医師2名+トリマー1名程度の病院なら、まして避妊手術など予約できるものであれば、外来時間以外にやりますよね。

また、しばしば「むっとする動物臭が・・・」のような表現があるのも気になった。
玄関をあけたとたんにむっとするほど臭う動物病院なら即、他の病院へ変わった方がよい。
少なくとも私は、入った途端にむっとするほど臭う病院で大事な子達を診てほしいとは思わない。
(もっとも、どれほど清潔にしていても、動物嫌いならむっと臭うかもしれないけれど。)
また、たとえば「檻」という言葉遣い。愛犬家ならケージとかクレートとかいうと思うし。
それから、飼い主さんと失踪していた愛犬の再開場面。

「あ、これだ。うちのです。」
「チョコっていうんです。チョコレートが好きだから」
page 26

探していた愛犬とやっと出会えて、「”これ”だ」「うち”の”」という表現に、どうしても違和感を感じる。
犬を家族と愛している白髪のご婦人なら、「この子です」とか「うちの犬」とか言いませんか?
旦那の事なら、「これ」とか「うちの」とかいうかもしれませんけれどね(?)。

それに、犬や猫にチョコレートは厳禁。
カカオマスに含まれるテオブロミンという物質が、心臓や中枢神経系を刺激して吐き気や痙攣など様々な症状を引き起こし、最悪死んでしまうから。
チョコレートを犬に食べさせてはいけない、というのは、犬飼い必須の常識だ。
とくに、てんかん持ちの犬は要注意。体重1kgあたりテオブロミン88mg以上摂取すると死に至るとの研究結果が発表されている。
だから、チョコレートが好きという飼い主の話に、無反応な獣医師なんてありえないのである.

そんなところが、作者は犬猫の飼育経験は無いのかなと、私が思ってしまう由縁で。

でも、よいところもある。

証拠隠滅のためには不利となっても、動物を気使う登場人物。
自分のペットではないのに、治療費を払うと申し出るバー勤めの女性。
ほっとする場面だ。

と、ここは猫愛護サイトなので、動物たちに対する姿勢や視線にはきびしいチェックがどうしてもはいってしまいます。
ご容赦のほどを。

第一話 耳を噛む犬

夜遅く、誰かに鋭い刃物で刺された中型犬が運び込まれた。
連れてきたの女性は、彼女の犬ではない、エレベーターの中で発見したという。
犬はじゃれて人の耳を甘噛みするクセがあった。
ただし、親しい人のみ。
誰が、どんな理由で犬を刺したのか?

第二話 嗤う鳥

死んだはずの夫が、幽霊になって出てきた?
まさか、生き返ってうろついている?
そして、インコに、言葉を教えたのか?

第三話 猫の中身

三毛猫が連れ込まれた。子宮蓄膿症で手術が必要だった。とりあえず入院させてた。
同じ日に、また三毛猫が連れ込まれた。異物を飲み込んだらしい。この子も入院させ、様子を見てから手術となったが?

第四話 憂鬱な犬

ペルシャ猫を連れた女がやってきた。頭痛がする、眩暈もすると。猫ではなく、女の方が。
獣医師は人間は診れないのだと断ったけど。

その二週間ほどあと、また同じ女がやってきて、同じ症状を訴えた。
ただし、今度は患者は猫の方。

そして、その女の同棲相手が行方不明になり、警察犬が憂鬱になった・・・

第五話 蛇のような・・・

その女が連れてきたのは、大きなニシキヘビ。
拒食症だという。
そして、その女とかかわりがあったのは、胃がんの男。

第六話 猫は見たか

当たっていた宝くじを、なくしてしまった。
一等の大当たりではないものの、男にとっては、まあまあの大金だ。
しかも、その宝くじは、もう一人と一緒に買ったもので、つまり、賞金も半分ずつに分ける話になっていた。

その片割れが死んだ。
アリバイは、猫?

第七話 炎を吐いた猫

つっぱった高校生が、猫をつれて駆け込んできた。
猫は火傷をしていた。
高校生の近所で火事があり、焼け跡で猫を発見したのだという。
幸い、その家の家族は留守で、けが人はいなかったが・・・

(2003年12月9日)

日下圭介『猫が嗤った』

日下圭介『猫が嗤った』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫が嗤った』

  • 著:日下圭介(くさか けいすけ)
  • 出版社:祥伝社ノンノベル
  • 発行:1990年
  • NDC:913.6(日本文学)短篇ミステリー集
  • ISBN:4396203144
  • 221ページ
  • 登場ニャン物:チコ、クロスケ、ゴロ
  • 登場動物:犬、金魚、インコ

 

目次(抜粋)

  • 第一話 耳を噛む犬
  • 第二話 嗤う鳥
  • 第三話 猫の中身
  • 第四話 憂鬱な犬
  • 第五話 蛇のような・・・
  • 第六話 猫は見たか
  • 第七話 炎を吐いた猫

 

著者について

日下圭介(くさか けいすけ)

「動物をどう事件に絡めるか、苦心の連続だった。しかしそれだけに、書く愉しみも格別大きかった」本格推理の名手として次々傑作を生みだしている氏が、綿密な取材と資料分析で拓いた本邦初の本格動物(ペット)ミステリーが本書である。(中略)東京生まれ、和歌山、山口で少年時代を送る。早稲田大学卒業後、朝日新聞入社。昭和50年『蝶たちは今・・・・・』で第21回江戸川乱歩賞受賞。昭和57年日本推理作家協会短編賞受賞。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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