中川こうじ『のらねこ。』

『外で暮らす猫の姿をありのままにとらえたフォトエッセイ』。
帯にはこう書いてある。
かわいいだけじゃない。
自由なだけじゃない。
かけがえのない命がここにある。
(中略)
さまざまな過去を背負い
不確定な未来に戸惑いながら
ひたすらに今日という日を生きるのらねこたち。
(後略)

中川こうじ『のらねこ。』
この写真集に掲載されている写真は、いわゆる「著名な動物カメラマン」の写真ではない。
「著名な動物カメラマン」の写真は、芸術性は高いのかもしれないけれど、私としてはどうも物足りないのである。
その理由ははっきりしている。
「著名な動物カメラマン」は、多くの場合、猫を被写体のひとつとしてしか見ていないからだ。
そう、ただの、風景の一部として。
たとえば、綺麗な景色の中にアクセントとして猫がポツン。
たとえば、ジャンプした猫のブレた下半身が躍動感を感じさせる。
・・・なぁんて写真もいいけどサ。
猫好きな私がみたいのは、小さくポツンと写った猫ではなく、大きくアップで写った猫だ。
ブレた下半身ではなく、可愛い肉球まではっきり写っている写真だ。
青い空も、昔懐かしい町並みも、猫に手を伸ばした人間の子供も、私にとってはむしろ邪魔なだけの存在。
猫写真ならまず猫でしょ!って思っちゃう。
この『のらねこ。』は、まさに、私好みの写真集だ。

中川こうじ『のらねこ。』帯もステキ

中川こうじ『のらねこ。』
筆者の中川こうじ氏は、拙里親募集掲示板にも頻繁に里親募集の書き込みをされている方。
そして写真の撮り方が、おそらく私の目線と同じなのである。
猫しか写っていない。
猫しか見ていない。
それも、その猫が最も輝いた瞬間、最も可愛く見える角度、最も魅力的にみえる光の中で、猫だけを撮っている。
どの子も野良で、きっと悲惨な状況にある子も多いはずなのに、どの写真も思わず、手を伸ばして撫でたくなるような、そんな瞬間が切り取られている。
病気の子でさえ、見る者に「この子を救いたい」と思わせるような、そんな写真に仕上がっている。
一生懸命生きている猫たち、どの子も魅力的、でもどこか切なくて、頼りなげで・・・
「著名な動物カメラマン」たちが写す野良猫たちは、汚れが目立っていたり、いかにもふてぶてしく人の手は不要って雰囲気だったりする。
そしてなぜか驚くほど多くの猫が目やにべったりのまま写っているものである。
しかし同じ野良でも中川氏のこのノラ達は目やにが付いている子が少ない。
これは偶然ではないだろう(野良子猫で目やにがこんなに少ないハズがないのだ)。
里親募集のための写真は、他人が一目見ただけで「この子を家族に迎えたい!」と惚れ込んでしまうほどに、その子の魅力を十二分に引き出していなければならない。
たとえボロボロに汚れた野良猫であっても、魅力的に見えなければならない。
拭き取れる目やになら、まず拭き取ってあげてから、写真を写す。でなければ、目やにが無いとき、またはついていても写っていない写真を探す。里親募集を頻繁にする人はいつの間にかそんな習慣が身に付いてしまう。。
また、こちらをまっすぐ見つめている写真が多いのも、もちろん、ヒトという生き物は目が合うと無視できないという習性があることを、中川氏が経験的にご存じだからだろう。だからつい本能的にそういう写真を選んでしまわれたのではないだろうか。
願わくば、野良猫捨て猫の里親募集なんていらない、誰も猫を捨てたりしない、生き物に優しい世の中になりますように。
(2007.4.20)

中川こうじ『のらねこ。』

中川こうじ『のらねこ。』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『のらねこ。』
外で暮らす猫の姿をありのままにとらえたフォトエッセイ
- 著:中川こうじ (なかがわ こうじ)
- 出版社:エンターブレイン
- 発行:2007年
- NDC:748(写真集)
- ISBN:9784757734074
- 111ページ
- カラー
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物-
【推薦:まめまま様】
こちらの里親掲示板にもよく書き込みをされている、Street Catsの管理人様発行のフォトエッセイです。
のんきで穏やか、自由でノビノビ♪・・の可愛い猫ちゃん写真集を陽とすれば、こちらは陰かも?
でも、お外で生きている子達の、紛れもない現実の一面を見ることが出来ます。
(2007.4.5.)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。