山路徹と救出チーム編『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

副題『福島第一原発半径20キロ圏以内 犬猫救出記』。

その昔。
アフリカで発生したといわれる人類が、はるばる日本の土地まで来て住み着き、文明を築き、国家を築き、土地に満ち溢れた。
以来、日本の国土は様々な災害に襲われてきた。台風、地震、火山の爆発、飢饉、流行病、戦争、その他。

けれども、・・・

去年2011年3月11日こそ、我ら日本人にとって、最大で最悪な大災害となったのではないか。
過去のどんな災害よりも、今回の東日本大災+原発事故こそ、歴史上もっとも凄惨ですさまじい災害となりつつあるのではないだろうか。

というのも。

台風や地震は、過ぎ去れば終わる。爪痕は残るが、平常の自然が戻る。
飢饉や流行病はもう少し長く続くが、何十年と続くわけではない。
戦争は悲惨だが、人間が起こした状況、人間が止める決心さえすれば終わる。

しかし、今回の災害は。

大地震と大津波で破壊されただけで済まされなかった。
原発事故という、最悪な事態に陥った。

いつまで続くのかわからない。
人類が、人類の能力をはるかに超えて、あまりに傲慢な無知に暴走して、原発をニョキニョキ建設した結果、大自然にあっさり敗北した。
原発事故に人類はなすすべもなく、ただ茫然自失するばかりである。

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』裏表紙の写真

そんな中。

個人の力で精いっぱい闘った人たちもいた。
できる事がどれほど限られていようと、必死に抵抗した人たちもいた。

山路徹氏は報道カメラマンである。
組織ジャーナリズムに限界を感じてフリーとなり、個人の立場で世界の紛争地帯を取材し続けてきた。

今回の震災で、国は原発30キロ圏内への立ち入りを禁止した。

するとそれを受けて某大手新聞社は50キロ圏内への立ち入りを自主規制した。
NHKももちろん、決して30キロ圏内には入らなかった。

30キロも50キロも離れた地点から、何を報道できるというのだろう!

そこに暮らす人々が、今、どのような状況にあるのか。それを伝えるには、まず同じ場所に立たなくてはならない。
p.6

山路氏は我が身の危険をも顧みず、果敢にも原発事故の最前線に飛び込み、取材を重ねる。
ところが、あきれたことに、ガチガチ保身な日本メディアは、氏の映像を受け取らない。仕方なく海外メディアやインターネットで映像を配信する。

そんな日々の過程で、私の感情を強く揺さぶる存在に出会った。置き去りにされ、生き延びることさえ困難な状況にある犬や猫たちだ。
なんとかしなければ―。
p.7

なにはともあれ、まずは食べ物を、運んであげなくては!

その様子をネットで配信すると、たちまち大きなうねりとなった。 『福島原発20キロ圏内犬猫救出プロジェクト』に発展し、2か月間で犬猫計約60頭を救出できたのだ。

もっとも、とはいっても、ごく小さな民間チームだ。わずか数名が数台の自家用車を運転して、ゴーストタウン化した20キロ圏内へ乗り込む。人気のない市街地に、痩せて傷だらけになった犬がフラフラと歩いている。外を歩ける子はまだ良い。つながれたまま餓死した腐乱死体がある。豚舎では豚たちが、牛舎では牛たちが、折り重なって死んでいる。腐っていく仲間達の側らには、かろうじてまだ生きている牛が、骸骨のようによろめいている。個人の力で全員の救出は不可能だ。「ごめんよ、ごめんよ」とつぶやきながら、せめてシャッターを押し続けるしかない。

呼びかけ人、山路徹氏。
救出チームのリーダーとなった、大綱直子氏。
山路氏と同じく戦場カメラマンで且つ猫好きとしても有名なフリーカメラマン、太田康介氏。
その他、名前も出さずに奔走された方々。

国が逃げた地域に飛び込んでいった彼らの勇気と行動力には、ただただ頭がさがる。

当然だろうが、世論からは反論も出た。
人間がこれほど困っている時に、犬猫もないだろうとか。どうせ殺して食べるためだった食肉牛、それを助けることに何の意味があるのか、とか。

だが、私は思うのだ。たったひとつの小さな命さえ救えない者が、どうして人を守れるというのか。小さな命を救えるからこそ、大きな命も救えるのではないか。さらにいえば、犬猫の命さえ助けられない社会が、どうやって人間の命を救えるというのだろうか。
p.48

薄い、小さな本である。
わずか109ページ。
写真も控えめ、文字もそれほど多いわけではない。
どのように被災地に入り、何を見、どのように動物たちを助けたか、あまり飾りのない文章で書かれているだけである。

が、内容は、とてつもなく重い。

どうか、お読みください。

(2011.3.20.)

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

『ゴン太、ごめんね、もう大丈夫だよ!』
福島第一原発半径20キロ圏以内 犬猫救出記

  • 著:山路徹と救出チーム編
  • 出版社:光文社
  • 発行:2011年7月
  • NDC:369(社会福祉)
  • ISBN:9784334976552
  • 109ページ
  • カラー
  • 登場ニャン物:ハナ、トラ、他
  • 登場動物:犬、他

目次(抜粋)

はじめに
山路徹

Part1 傷だらけになりながらも、牛・鶏を守った忠犬・ゴン太の物語

Part2 無我夢中で救った60の小さい命
呼びかけ人・山路徹の活動記録

Part3 犬を探し回り、軒先の植木鉢まで犬に見えて
チームリーダー・大綱直子の活動記録

Part4 「ごめんよ」とつぶやきながら、シャッターを押し続けて
フリーカメラマン・大田康介の活動記録

著者について

山路徹 (やまじ とおる)

TBSテレビ、テレビ朝日系プロダクションを経て1992年に独立し、国内初の紛争地専門の独立系ニュース通品者APC通信社を設立。これまで、ビルマ、ボスニア、ソマリア、カンボジア、アフガニスタン他、世界の紛争地を精力的に取材する。近年は、国内の事件、事故、災害、社会問題などの調査報道にも取り組む。

大網直子(おおあみ なおこ)

『福島原発20キロ圏内 犬猫救出プロジェクト』のチームリーダー。

太田康介(おおた やすすけ)

大の猫好きのフリーカメラマン。
ブログ「うちのとらまる」

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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