仁木悦子『猫は知っていた』

若い兄妹が難事件を解く。
『猫は知っていた』は、1956年、河出書房の長編ミステリ一席入選したが、同社の財政悪化の為に出版中止、良く1957年、一般公募の江戸川乱歩章に回され受賞したという作品。
小説では、事件や展開が、時には図説つきで、ひとつひとつ明確に推理・整頓されていく。
まるで数学の証明問題を解いているようだ。
全体に明るくて素直で、実に健全な雰囲気を持っている。
なぜ、植物学や音楽を専攻している学生が、警察の内部にまではいりこんで探偵ごっこすることが許されるのか、という問題はとりあえずおいておこう。
戦後1950年代の日本、高度成長を純粋に目標と信じて邁進できたような、ある意味でくったくの無かった時代だからこそ、書くことができたような本だ。
今のひねくれた世相では、推理小説をこのように健全に書くことは無理なのではないか。
ある病院兼院長自宅で、連続殺人事件が起こる。
そして、物語ではほとんど背景画のように、あまり目立たない存在としてしか描かれていない猫が、実はもっとも重要なヒントとなっている。
なぜ、猫がそこにいたのか、あるいは、なぜいなかったのか。
その謎さえ解ければ、殺人事件そのものが解決されたも同然だ。
(2002.4.30)

仁木悦子『猫は知っていた』

仁木悦子『猫は知っていた』
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『猫は知っていた』
仁木兄弟長編全集①夏・秋の巻
- 著:仁木悦子(にき えつこ)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:出版芸術社
- 発行:1957年
- NDC: 913.6(日本文学)推理小説
- ISBN:4062638762
- 349ページ
- 登場ニャン物:チミ
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- 猫は知っていた――夏―七月
- 林の中の家――秋―十月
- 作品ノート―仁木悦子
- 解説―新保博久
- 自筆年譜―仁木悦子