西加奈子『白いしるし』

西加奈子『白いしるし』

切なく激しい恋愛。

夏目は「三二歳、独身で恋人もおらず、アルバイトをしながら、金にならぬ絵を描いている(page8)」。

彼女は、最後の彼との別れを引きずり、新しい恋愛に踏み出せずにいた。もういい歳になると言うのに。

そんな彼女の前に現れた年下の画家『間島昭文』。彼の絵は一風かわっていた。真っ白なキャンパスに、白い絵の具で描く。遠目にはただ白いだけのキャンパスに見えるのに、角度によって、光の具合によって、鮮やかな絵が浮かび上がる。ゴタゴタと色を塗りたくる彼女の絵とは対照的な絵だ。

そんな、対照的な絵を描く年下の画家に、彼女は初対面から心を奪われてしまった。もう恋はしないはずだったのに。

感想

最初から最後まで、切ない恋に身もだえて身もだえて、息もつけないほどに身もだえし続けるような作品です。

主な登場人物は3人。主人公の夏目と、恋をする相手の『間島昭文』と、夏目の良き男友達の瀬田。『間島昭文』はいつも二重カギ括弧付きで現れます。

表面上は軽妙な関西弁の会話を続けながら、その心は震え、おののき、泣いている。好きすぎて、苦しくて、でも『間島昭文』には彼女がいると最初から聞かされていて。

そして。ある日、あの何でも話せた、お互いよく気心の知れた仲と信じていた瀬田の秘密も知ってしまう夏目。

その、瀬田の秘密の中に猫も出てきます。ごく短い登場ですが、重要な役として出てきます。重要なキーではあるものの、猫小説といえるほどの登場ではありませんので「猫本ってほどじゃないけど」の分類となります。

この作品は、若い女性にうけそうですね。今恋愛中の女性、恋愛をしたい女性、恋愛を失った女性、こわくて恋愛に踏み出せない女性。きっと胸が苦しくなります。若く純粋な読者ほど、主人公の夏目と同化してしまいそうです。実らない恋としっていて激しく恋してしまった女性ほど、身につまされるものがあるでしょう。

全体的には、白を通り越して、もう半透明な乳白色のような作品です。でもサラサラと流れる色ではありません。どこまでも白いが、どろりと粘着性があり、それゆえに透明になれずに半透明の状態で震えている乳白色です。

カバーの絵、後ろを向いた猫の頭の写真なのですけれど、猫を表紙にもってくるのならもっと真っ白な猫のほうがよかった。白猫の薄い輪郭だけでもよかった。そのほうが、私的には、作品の内容に合っているような気がします・・・

 

西加奈子『白いしるし』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像にあえてボカシをいれる場合があります。ご了承ください。

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著者について

西加奈子(にし かなこ)

2004年(平成16年)に『あおい』でデビュー。翌年、1匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。’07年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。’13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。’15年『サラバ!』で直木賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。


(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『白いしるし』

  • 著:西加奈子(にし かなこ)
  • 出版社:株式会社新潮社 新潮文庫
  • 発行:2013年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784101349572
  • 198ページ
  • 初出:平成22年新潮社単行本
  • 登場ニャン物:クイン
  • 登場動物:-
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